【未完の怪作】ゆでたまご先生 暗黒期に描かれた意欲作、『ハダカーン』をキミは知っているか?!

こんにちは!アツコアツオです。

漫画家ゆでたまご先生を研究する【ゆでたまご研究所】へようこそ。

キン肉マン連載終了後、いくつかの作品を世に送り出したゆでたまご先生でしたが、キン肉マンⅡ世連載開始までの長い長いスランプ期に突入しました。(これは先生ご自身も認めているところ)

『ゆうれい小僧がやってきた!』『SCRAP三太夫』『蹴撃手マモル』『トータルファイターK』『ライオンハート』『グルマンくん』…と、一般人はもはや知りえない、漫画ファンでさえその存在を知らないかもしれない短命作品が多くあります

今回はその中でも、特に知る人ぞ知る怪作『ハダカーン』を紹介しようと思います!

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ハダカーン~パンクラチオンの星~

🄫ゆでたまご/集英社

出だしのこのコマを見るだけでも素晴らしい画力です。

筋肉の書き方と陰影のつけ方がとにかくカッコイイ。作品に賭ける気合が伝わってくるひとコマですね!

『Rintama』で連載も…

昔、ウッチャンナンチャンの南原氏が司会を務めるプロレス・格闘技系バラエティー『リングの魂』っていうテレビ番組がありまして、40代以上だと覚えている方も多いのではないでしょうか。

そんな『リングの魂』が『Rintama』という雑誌を出すことになり、本作はその第3号から連載がスタートしたゆでたまご先生の短編漫画です

とはいえ、雑誌『Rintama』は運悪く本作連載スタートの第3号で休刊になってしまったらしく、『ハダカーン』はたった1話掲載されただけで、未完のまま終了しています。

ゆでたまご自伝『生たまご』によると、原稿料は相場より安いわ、入稿した原稿は帰ってこないわ、ギャラが支払われたのは1年後だったなどなど…かなり杜撰な発注体系だったようですね。

極めつけに、雑誌の袖部分にジャンプをインスパイアしたであろう文言「ゆでたまご先生の漫画が読めるのはRintamaだけ」という皮肉めいたパロディが書かれていたようです…。

まあ、実際に当時は他に連載作品がなかったようですし、シニカルギャグなんでしょうけど、先生を馬鹿にするのもいい加減にしろ!って感じですよね。

『Rintama』の制作布陣

この『Rintama』は、90年代に既存のプロレス雑誌とは一線を画して人気を博した雑誌『紙のプロレス(Kamipro)』を発行していた、山口昇氏が設立した会社 ダブルクロスが手掛けた雑誌の模様。

さらにWikipediaによると、『Rintama』は山口氏と新人女子2名体制だったとのことで、山口氏が番組プロデューサーと喧嘩したことによる休刊だったようですね。

入稿した漫画は最終的に漫画家の手元に戻ってくるのが常識のようですが、そもそもそうした常識が通用しない業界だったのかもしれませんし、少数で運営していたこともあり、もはやそんな常識が通用する会社組織ではなかったのかもしれません。

それにしても、ゆでたまご先生からするととばっちりでしかありませんね…。

『生たまご』によると「とりあえず作品を描いているぞというアピールが世間にできればいいと思った」とのことですが、結果的にとんだ災難にあってしまったようです。

発表した時期

『キン肉マン』連載終了後、しばらくはジャンプ専属契約時期が続き、その期間の連載漫画もヒットせず、ついに集英社を離れることになったゆでたまご先生

以後はデラックスボンボン『トータルファイターK』、ガンガン『ライオンハート』、少年エース『グルマンくん』を連載するも、これらも短命に終了してしまいます。

『ハダカーン』はすべての漫画連載を失っていた1996年12月に、ひっそりと雑誌『Rintama』に掲載されました。

キン肉マンⅡ世が始まるまでのミッシングリンク(というほど大げさではないですが…)を埋める、希少な作品といえるでしょう!

ますます上がる画力

ベテラン漫画家は連載時期によってどんどんと絵のタッチが変わっていくものです。

例えば『キン肉マン』ひとつとっても、シリーズを重ねるごとにどんどん画風が変わっていますよね。

初期の怪獣退治編~第20回超人オリンピックまでの絵はちょっと素人っぽさが残っていますし(私はこの時期が一番好きだったりします)、アメリカ遠征編ではアメコミ調のソリッドな画風に変化しました。

さらに悪魔超人編~黄金のマスク編では丸っこくて親しみやすい画風に変わり、夢の超人タッグ編~王位争奪戦にかけては、キャラクターの等身がデカく太っちょの印象がありますよね。(とにかく太ももが太い時期です)

さらに、ゆでたまご暗黒期の作品『トータルファイターK』『ライオンハート』『グルマンくん』では、どんどん画風が変わり、なぜかカクカクと角ばったキャラクターが多くなってしまって…

🄫ゆでたまご/集英社
🄫ゆでたまご/集英社

最も顕著なのは『ライオンハート』に登場する裸のオッサン、アダムではないでしょうか。なんかカクカクしてるでしょ?

🄫ゆでたまご/集英社

どうにも角ばった直線的な絵のキャラクターが多かったのですが、キン肉マンⅡ世前夜の『マッスル・リターンズ』や今回紹介する『ハダカーン』では、そうした独特の絵のクセが消えて、嶋田先生の言葉を借りると「悪いフォームが矯正されて」(生たまごより)とても読みやすい絵にまとまっています

連載がない時期は中井先生はデジタルハリウッドなるパソコンスクールにも通っていたそうで、アナログな画力向上のみならず、デジタルで漫画を描くことも勉強されていたそうです。

数々の短期連載を経て暗黒期を抜け出せずにいたゆでたまご先生ですが、画力に関していうと確実に復活の萌芽が出始めているといえるのが、この『ハダカーン』時期でしょう

ハダカーンの内容

さて、肝心の『ハダカーン』の内容ですが、なにせ1回きりの掲載で7ページしかありませんので、ほとんどお話は進行しません(笑)

プロレス団体のニュー日本プロレスが豪華なアメリカンレスラーを招聘し、日本チームの不二波/瀬戸チームがスタングとロンディ・サベージと対戦します。日本チームはど派手なコスチュームとペイントで身をまとったドリーム・アメリカン・デュオにのされてしまいます。

地味な黒パンスタイルの日本タッグに、ヤンキー軍団はダブルインパクト式摩天楼ダブルアックスハンドル(なんやそれ)で藤波(いや不二波)を吹っ飛ばしたところ、サッと救出に入った巨大な影

派手なコスチュームが強さの象徴だとぬかすヘタレ外人に、かつては強いレスラーの象徴は黒いタイツであり、さらに古代ローマのパンクラチオンでは一致まとわぬ素っ裸だったと主張…。

🄫ゆでたまご/集英社

救出したのは黒いマスクに「は」の文字が記されたハチマキだけを巻いた、スッポンポンの肥満男

「実力のない奴ほど派手でおどろおどろしい衣を身にまとい、強く見せようとするもの」とのたまう彼は、自身が「パンクラチオンの星 ハダカーン」であることを明かします。

謎の乱入者に向かって飛び掛かるアメリカンデュオに向かって、肥満の体から繰り出すローリング乳ソバットや肉襦袢バックブリーカーで圧倒します

勝負ありかと思ったところ、場外に吹っ飛ばされていたロンディが自分の予備コスチュームである派手なショートパンツをハダカーンに履かせると、ハチマキの「は」が音を立てて点灯し始めます。

「私の戦闘エネルギーは裸でいる時に100%全開になる…しかしド派手なパンツをはかされると そのエネルギーは半減してしまう!」

といって倒れてしまいます。

…おわり。

これで終わりです(笑)

考察とツッコミ

7ページという制限の中で、起きている危機・救世主登場・説明とお披露目・弱点とピンチがコンパクトにまとめらていますね。さすがゆでたまご先生といったところ。

さらに雑誌『Ritama』は、どちらかというとお約束的プロレスよりは旧U系やK-1、さらには総合格闘技を意識したような誌面作りになっており、そんな読者を意識し”パンクラチオン”というテーマにしたんでしょう。実際のハダカーンはパンクラチオンにはほど遠い、裸なだけの肥満体なのですが(笑)

ハダカーンがパンツをはかされたことで、エネルギーを失いダウンしたところで本作は未完になっていますが、ゆでたまご先生の頭脳ではこのあとどんな展開になる予定だったんでしょうかね…

地味と派手のモチーフ

やられ役は新日本プロレスの藤波・木戸をモチーフにした選手で、対するアメリカンデュオはスティングとランディ・サベージをモチーフにしていますね。スティングは顔面ペイントレスラーで、ランディ・サベージは当時のアメリカマット界でもっとも派手なコスチュームをまとっていた選手の一人です。

さらに、ハダカーンが派手なレスラーを揶揄するシーンでは、アルティメット・ウォリアーやミスター・ポーゴ、天山広吉、ゴールダストらしきレスラーのイラストも登場。時代の最先端の格闘技を信奉するファンや格闘技ファンなどの読者層を意識した、既存プロレスへのアンチテーゼにも読み取れます(いや、そんな大げさなものじゃないか)。

ハダカーンのキャラクター

古代ローマのパンクラチオンを標榜とするわりに超肥満なハダカーン。

スッポンポンの体で、丸出しになったポコチンを頭に巻いたハチマキとマフラーでうまく隠すのですが、この風貌はすでの永井豪作『けっこう仮面』で登場していますから、オリジナルキャラとはちょっと言いにくい…

得意技は超肥満の全身を活かした乳ソバットや、贅肉の塊に人間を取り込んでいく肉襦袢バックブリーカー。ギャグマンガ流のプロレス技が展開されました。

本作の少し前に描かれた『マッスル・リターンズ』では、キン肉マンがケツのほっぺシザーズやパンツドライバーなどお笑い技で相手を圧倒するシーンがありますが、その流れを組んでいるともいえますね。

中井先生によると、ハダカーンの付き人のような少年は”ヌードくん”というそうです(笑)

掲載されている書籍

調べたところ、ジャンプコミックスセレクション『キン肉マン特盛』にしか掲載されていないと思われます。または連載雑誌『Rintama』第3号を入手するかですね…。

『キン肉マン特盛』は現在新品では入手できませんが、ネットオークションやフリマサイトではよく見かけますので、気になる方は探してみてください。

さいごに

いかがだったでしょうか?ゆでたまご先生 未完の怪作『ハダカーン』

よほどのゆでマニアでない限りチェックしたい方は少ないかもしれませんが、掲載されている『キン肉マン特盛』は他にも復刻漫画や企画コーナーが盛りだくさんなので、是非入手していただきたい一冊です。

次回も、女房を質に入れてでも見に来てくださいね!

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