稲川淳二の怪談を整理する、怪談!稲川倉庫です。
今回は、『MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談 Selection2 北海道の花嫁』を整理!
(CD発売日:2003年7月25日)<MNT-02>
『MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談』シリーズ
『MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談 Selection1 北陸の海岸』と同時発売です。
副題に”心を癒す怪談集”とついていて、収録されているのは怖くて恐ろしい話ではありません。寂しくてもの悲しい。それでいて、なんだか心が優しい気持ちになる、そんなお話しが収録されています。『北陸の海岸』とは違って、比較的短いお話しが多く、収録話も比例して多くなっていますよ。
このCDは不思議なんですよね。自分の年齢や状況によって、結構印象や感じ方が変わるんです。昔聞いたときはね、(まあそんな不思議な話もあるんだな)ぐらいにしか感じなかったんですがね。
アラフォーにもなってくると、青春の甘酸っぱさだとか、親子の暖かさだとか、故郷を想う気持ちだとか、私の感情が豊かになったのか、ぐっと胸が熱くなってくるんですね。
心を癒す怪談集。まさにそんなお話がたくさん聞くことができますよ。
本作、『~Selection2 北海道の花嫁』の収録話は以下の通り。
『MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談 Selection2 北海道の花嫁』
1996年に始まった”怪談ライブ”の全国ツアー。 「怖いだけが怪談じゃない。心を癒してくれるやさしい霊の話もたくさんある。」 感動の怪談傑作集!! 稲川淳二のもうひとつの怪談の世界がここに…
ホームページから引用
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(ベストアルバムBOXにようなもの)
Intoroduction
これから始まる、優しくて暖かなお話を包んでくれる。そんなインストルメンタルです。
数学書のあとがき (1996)
この話は、ある出版社の方から教えてもらったんです。
それはね、数学書なんですよ。数学書なんか知識がある人しか読めませんからね。この本のあとがきが良いんですよって、それドイツ語で書いてあるんで余計に読めないんですが、中身を聞いてきたから話すよって、その方が教えてくれたんです。
それは、ドイツ人の著者が幼いころの思い出なんです。当時ドイツは第二次世界大戦で敗戦し、非常に貧しかった。食べるものも満足になくて我慢を強いられる、そんな時代だった。その子の村では、お菓子をくれるお祭りがあったんですが、そんな状況ですからねえ。満足にお菓子なんか買えるわけがない。でもその子はチョコレートのお菓子が食べたかった。
母親には贅沢いうんじゃないって怒られるし、おばあちゃんはいつか買ってあげるからねというばかりで、いつになるかわからない。その子はお菓子が欲しかったんですね。
そんな時。村を歩いていると、背の高い兵隊さんに出会った。「元気かい?」兵隊さんはその子の名前を知っていて、声を掛けてきた。お母さんのことも、おばあちゃんのことも知っていた。(ああ、兵隊さんは僕たちのことを知っているんだな)と思った。
兵隊さんはその子をみて、「悲しい顔をしているけどどうしたの?」って聞いてきた。その子は、お菓子が欲しいけど、お母さんは贅沢いってはいけないと怒るし、おばあちゃんはいつ買ってくれるかわからないし…。そういうと、兵隊さんは優しい顔で、お菓子を買ってあげようと言って、街へ連れて行ってくれた。
お菓子を買ってもらったその子は、うれしくって夢中になって家へ帰ってきた。盗んできたと勘違いする母親とおばあちゃんに、兵隊さんに買ってもらったんだと説明したところ…。
一言コメント(ネタバレ注意)
「自分は数学者だから、数学の答えは一つだ。だけど、この世の中には割り切れないことがあることを私は知っている。それはー」
このお話し、数学者の細かい家族関係なんかの説明は一切ありません。
ですけど、どういう状況で、その兵隊さんがなぜお菓子を買ってくれたのか、その兵隊さんはその子にとってどういう存在だったのかを、丁寧な描写だけでリスナーに気づかせてくれる。
ストーリー自体もそうなんですが、座長の語りと構成が非常に見事な作品です。聞いたことがない方、このお話しはオススメですよ。
銀星号 (1997)
座長が羽田空港で飛行機を洗うっていうロケに参加したときの話なんです。撮影もひと段落して、適当に腰かけていると、ベテラン整備士のおじさんが話しかけてきたんですよ。
羽田空港ってのは、昔から飛行場があったんですが、一時期は米軍に接収されてね。で、いまの民間飛行機の空港になっているんですが、このオジサンは時代によって変わりゆく飛行場で、ずーっと整備の仕事をしていたんです。
その昔、エンジンが二つ付いている双発の飛行機で「銀星号」っていう世界へ飛び立った飛行機があったんですが、この銀星号はついには帰ってこなかった。
羽田空港には、星の降るような晩が年に2度ある。その時、銀星号が帰ってくるっていうんですよねえ。
一言コメント(ネタバレ注意)
星の降るような晩に帰ってくるっていうのが、美しいしロマンチックですよね。もしかすると、霊現象っていうのは、人間だけのものじゃあないかもしれないですね。
物質的なものにも魂が宿るのかもしれません。
北海道の花嫁 (1996)
座長がテレビ局のスタッフから教えてもらったお話しなんです。
そのスタッフのおじさんが体験した話なんですけどね、昔、北海道へ旅行するのが流行った時期があったんですよ。そんな時に学生だったおじさんは、2か月ばかし北海道の牧場で働いていたんですが、その牧場の娘さんと良い仲になったんです。まあお互いに好きになってしまったんだな。
で、当時おじさんは学生でしたから、「必ずまた戻ってくるよ」といって牧場を後にした。
社会人になって、毎日があわただしく過ぎていく。そんな時ですが、友人と久しぶりに旅行に行こうという話になり、特に当てもなかったんで(北海道の牧場へ行ってみよう)ってことになり、友人も同意してくれたんです。
数年ぶりの牧場、あの娘さんに会えるかなと期待して訪れたんですが、丁度その時、娘さんが亡くなって葬儀をした日だったんです。妙な縁というかねえ、状況的に「彼女が呼んだのかもしれない」なんて牧場の人たちと言ってたんですよ。その日は牧場で一泊して、翌日墓参りをしようということになった。
北海道の肌寒い明け方、寝ているおじさんが腕のあたりにふっと違和感を感じて起きると、そこには埋葬したはずの白装束の娘さんが横たわっていたんです…。
一言コメント(ネタバレ注意)
本話はこのCD収録で3度目の登場です。別名「夜毎舞い戻る花嫁の謎」「屍を抱く男」。そして「北海道の花嫁」。皆さんはどのタイトルが好みでしょうか?
この話、結局おじさんはこの後どうなったのか大変気になります。
事件の真相が発覚して、「あ~そうだったのか、ロマンチックだねえ」では済まないような気がしています(笑)。
マネージャーの最後の仕事 (2001)
この話は、わりとマイナーな役者さんと言っては失礼なんですが、テレビや映画には出演せずに、地方回りの舞台が多い、そんなベテランの役者さんなんですが。
その方は移動が朝早いもんですからね、羽田空港の始発を利用することがあるんですよ。で、そんな時は午前3時頃に起きるんですが、しばらくすると電話が入った。杉山マネージャーからのいつもの電話。
「おはようございます。4時頃お迎えに上がります」
いつも通りの連絡なんですが、電話を切ったあとふっと気づいた。というのも、杉山マネージャーは体調を崩して休養中で、故郷に帰っているんですよね。(あれ~確かに杉山の声だったよなあ。)そんなことを考えながら支度をしていると、また電話が鳴った。
「おはようございます~あの~4時半ぐらいにお伺いしますんで」杉山マネージャーの代わりについている、若手の上田マネージャーの声だ。あれ?と思ってね、「今しがた電話くれなかった?」と聞いたんですが、電話なんかしていないっていうんですよ。(おかしいな~)と思っていると、上田マネージャーが
「お伝えしといた方が良いと思うんですが。社長のところに、杉山マネージャーが午前3時に亡くなったって連絡が入りました」。
っていうもんだから、じゃああれは死んだ杉山からの電話か…?上田マネージャーにはとにかく早く来るようにいったんですが、怖い、落ち着かない。
時計をふっと見ると「4時」。すると玄関のドアが開くような音がして…。
一言コメント(ネタバレ注意)
迎えに来た杉山マネージャーのことを、この役者さんは怖くなって「今日はいいんだ、帰ってくれ」って追い返しちゃうんです。
で、しばらくして落ち着いたころ冷静になって考えると、杉山マネージャーは、亡くなってまで自分のスケジュールのことを考えてくれていたのかと、かわいそうになってきた。10年近く連れ添ってくれていたマネージャーの献身を考えると、胸が熱くなってきたっていうんですよねえ。
当たり前のように、まわりに助けられて毎日を送っていますが、身近な人にこそ日ごろから感謝の気持ちを忘れたくないものですね。
死んでしまったら、直接感謝を伝えることはできませんからね。
塹壕の兵士 (2002)
太平洋戦争、野村さんは日本軍の兵士として南方で戦ったんです。インドネシア、その日は昼に激しい戦闘があったんです。なのに夕方になると、戦闘はピタッと止んでね。あたりはシーンと静まり返って、信じられない静けさに包まれた。
野村さんは塹壕、まあ簡単にいば地面に掘った深い溝なんですが、そこに腰かけて一息ついていた。赤く夕日に染まった空をじーっと見ていたんです。すると、鼻歌が聞こえてきた。向こうの塹壕から聞こえてきて、呼ばれるように行ってみた。そこには瘦せこけた兵士がいて、塹壕の土壁にもたれかかりながら鼻歌を歌っていた。その兵士は、日本の方角はどっちかって野村さんに聞いたんですね。
静寂の中、夕日を眺めながら、兵士と話をしていると戦友がやってきた。
「野村、誰としゃべっているんだ?」
兵士の方をふっとみると…。
一言コメント(ネタバレ注意)
戦争って命の取り合いですよ。
そんな極限状態では、常識では考えられないことが起きるのも決して不思議じゃあありませんよね。遠く離れた戦地で戦う兵士は、死ぬ間際に故郷に帰っていたのかもしれません。
コウスケ (2001)
この話は、アキオ君が7歳の時、おばあちゃんの家で体験した話なんですよ。
夏休み、母親に連れられて茨城県の実家へ遊びに行ったんです。あたりは自然いっぱいで、アキオ君は時間を忘れてはしゃいだもんだから、熱が出ちゃったんですね。で、夏風邪だろうからって、しばらく寝ていた。おばあちゃんの家は地元では有名な旧家で大きなお屋敷でねえ、水枕を敷いてぼ~と寝ていた。
「カッコッコッコ…」外で下駄の音が聞こえる。ふっと見ると、男の子が遊んでいた。この家には男の子はいないのになあ、と思ってぼんやり見ていた。
次の日もアキオ君は寝ていたんですが、また下駄の音が聞こえてきて、だんだん近づいて聞こえてくる。で、縁側ところまでやってきた。幼い子供の影が見えるんだそうですよ。
アキオ君は、「病気が治ったら遊ぼうね」って言った。
影はコクってうなずいた。名前を聞くと「コウスケ」って言ったような気がした。
翌日。元気になったアキオ君はコウスケを待っていたんですが、ついに帰る日まで一度もコウスケは来なかった。次の年の夏休みも、その次の夏休みも、コウスケには会えなかった。アキオ君はコウスケは座敷童なんじゃないかなあって思ってた。
十数年の月日が経って、おばあちゃんの葬儀に出席した時、思いがけずコウスケのことを聞くことになるんです…。
一言コメント(ネタバレ注意)
実はコウスケは、お母さんの兄弟で一番末っ子で、7歳の時に亡くなった男の子だったんです。
葬儀のころになると、アキオ君はお母さんの兄弟で”コウスケ”がいたことは知っていたんですが、葬儀の後、あれこれと荷物を整理していると、あの日見たコウスケが着ていたのと同じ洋服が見つかったんですよ。
コウスケは、自分がいた部屋で休んでいるアキオ君と遊びたくて、出てきたんでしょうね。きっと。
母の愛 (1994)
これは、座長の奥さんの母親が実際に体験した、青森での出来事なんです。
当時、母親の友人が出産したんですが、産後に体調を崩して入院したんです。これがなかなか良い方に向かわない。旦那さんが赤ちゃんの面倒を見ていたそうなんですが、奥さんの母親たちが病院に顔を出したり、家へ手伝いへ行ったりしていたんです。
体調がますます悪くなって、ついにはもう、誰の目にも明らかに衰弱していった。で、もう厳しいだろう、山場だろうって状況になって、寝ずに看病していたんですよ。奥さんの母親と友人たちは椅子を3つ並べてね、病人を看ていたんですが、うつらうつらしてきて寝ちゃった。
夜中を過ぎたころ、ふっと目を覚ますと、病室が寒い。ふっと見ると窓が開いている。(誰か開けたかな)と思って見ていると、白い手がニューッと出てきて、窓の外から病人がはいずり上がってきた。それ、ベッドで寝ている病人団ですよ。
(なんだーっ)と思って見ているとね、窓から入ってきて、寝ている病人に重なるようにひとつなった。
すると、病人はベッドからすーっと起き上がってきて、
「見られちゃったわね。子供のことが気になっていたもんだから、うちへ行ってミルクを上げてきたの。」
そういって、その病人は亡くなったそうですよ。
一言コメント(ネタバレ注意)
生んだばかりの赤ちゃんを残して、自分がもう死んでいくっていう時なのに、赤ちゃんのことが気になって霊体が赤ちゃんに会いに行ったんでしょうかねえ。
母親の愛情っているのは、ありえないような奇跡を起こすのかもしれません。
Theme song
けっこうしっかりとしたJ-POPです。バラード風のロックっていうかな。ちょっとミスチルっぽくもある。心を癒す怪談集のテーマソングっていったところでしょうか。
このCDをよく聞きこんで気づいたんですが、「北海道の花嫁」のバックミュージックにこのTheme Songのピアノバージョンが流れていました。
さいごに
いかがだったでしょうか?
ミステリーナイトツアーシリーズのスタジオ収録盤のSelectin2!本CDの収録話のなかでは、「数学書のあとがき」と「北海道の花嫁」が圧倒的に有名ではないでしょうかね。
この2話はまごうことなき名作ですから、座長の話を聞いたことがない方は、ぜひ何らかの媒体で聞いてみて下さいね。
ミステリーナイトツアーシリーズの紹介はまだまだ続きます。また、お付き合いくださいね。
それじゃあまた。次の怪異でお会いしましょう。
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