終戦に向かう長い1日を通して戦争を考える、岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』を観た!

今回は池袋・新文芸坐で、岡本喜八監督の戦争特集として組まれた上映プログラムから、『日本のいちばん長い日』『肉弾』を観てきましたので、それぞれ紹介したいと思います!

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岡本喜八監督の戦争映画

新文芸坐では、毎年お盆時期に<戦争を考える映画特集>が組まれているのですが、私は大体の夏休みは大阪へ帰省しているので観る機会がなかったのです。今年は帰省を控えましたのでこのチャンスを逃すまいと新文芸坐へ行ってきました。

昨今はロシアのウクライナ侵攻、中国軍の台湾近海での軍事演習など、きな臭い流れになっています。先の大戦における日本独特の戦争観を、映画を通して改めて平和を考えるきっかけになればと思い観賞しました。

岡本喜八監督作品について、過去に『殺人狂時代』『大誘拐RAINBOW KIDS』を観たことがありました。映画ファン歴が浅いため、この監督の特徴っていうところまでは捉えきれていないのですが、その2作はどちらかというとあまりシリアスではなく、軽快でテンポが良いという印象でした。

では岡本喜八監督が描く戦争映画とはどんなものか?!

『日本のいちばん長い日』

私は映画を観るときに予備知識まったくナシで観るようにしているのですが、本作の”日本のいちばん長い日”とは終戦の8月15日を指していることは知っていました。奇しくも今から77年前の今日です。

…とはいえ、それ以外の情報はまったくナシ。3時間オーバーの超大作で、しかも映画2本組の2本目に観たにもかかわらず、時間を感じさせない・退屈しない・飽きない!

5時間近く映画館の椅子に座っていますのでお尻は疲れましたが、(早く終わらないかな~)と感じることなくエンディングまで楽しませてくれました。これってやっぱり映画の力だよな~。

本作はモノクロ映画です。時代的には既にカラーがあった時期だと思いますが、まるでその時・その場にいたような感覚になる効果がありますね。

三船敏郎は切腹するのね…。

当ブログ「映画を観た!」コーナーおなじみの「アナーキー日本映画史」にも掲載!

皆さんは表紙は何の映画かわかりますか?

☑ここは見てほしい!オススメシーン

  • 陸軍大臣役 三船敏郎の渋さ・男臭さ
  • 陸軍青年将校役 黒沢年雄の好演
  • 横浜警備隊長役 天本英世のキチっぷり

『日本のいちばん長い日』のあらすじ(ネタバレ注意)

太平洋戦争末期。1945年7月にアメリカ・イギリス・中華民国からなる連合軍から出されたポツダム宣言が出され、政府はどのように対応しようか思案していた中、8月上旬の広島・長崎への原爆投下、そしてソ連の参戦を受け、ポツダム宣言受諾による降伏を支持する声が高まっていた。

時の総理であった鈴木貫太郎首相は、天皇臨席の御前会議にて「聖断」を仰ぎ、8月10日にポツダム宣言受諾を決定した。ポツダム宣言には「無条件降伏」という項目があり、天皇体制維持と戦争継続を訴える陸軍省は激しい反発が起きる。

その後、天皇の玉音放送をもって国民に敗戦を知らせることとなり、録音によるものを放送すると知った一部の青年将校が、徹底抗戦を目論見クーデターを決起。宮中に籠城し玉音放送阻止せんと録音盤を押収しようと画策する。

本作はポツダム宣言受諾から玉音放送までの会議・詔作成・録音など政府内組織的な動きと、あくまで徹底抗戦を訴える一部の青年将校たちが、各所へ決起を呼び掛けるクーデター事件(宮城事件)の長い1日の出来事を描いた映画です。

ポツダム宣言受諾に関する政治シーンはシン・ゴジラの元ネタになったとも言われていますね。

超マクロ目線な”終戦”

本作は、各所高官・日本政府及び最高権力者による”終戦”を描いています。戦争指導者でありながら、命の危険にさらされることのない安全地帯から戦況を考え戦争を終わらせようとする、超マクロ目線な戦争映画と言えます。

また、同名の原作本があるのでそちらに沿った内容だとは思うのですが、史実を元にしたノン・フィクションと一部創作が入り乱れているようです。起きた出来事は事実だと思うのですが、細かいディテールなどはあくまで映画として捉えておいた方がよさそうです。

その中でも軍関係者や天皇陛下は、日本国民の命が奪われ、日本民族や文化が崩壊することを悲観しており、単なるメンツや政治ゲームだけで無条件降伏への対応を考えていたわけではないことが描かれています(あくまで映画として、ですが)。

徹底抗戦を訴える陸軍側も様々で、単に本土決戦を訴えるものもいれば、日本人らしく美しく散るべきとある種の美学に訴えるものもいます。本土決戦にしてもクーデターにしても、そこに欠落しているのは目的意識でしょうか。思想が強すぎて、それが何のためになされるものなのかがブレまくっています。日本的思考の欠点をついた、日本軍の失敗を元に分析された名著『失敗の本質』が詳しいかもしれません。

その点、陸軍の大将クラスは組織論的には芯がしっかりしていて、天皇がポツダム宣言受諾を決意したのだから、御心に沿うべきだと青年将校の決起参画を断固拒否します

かくして、天皇は政府に騙されてポツダム宣言受諾し玉音放送を録音させられたという謎の理論をもとに、一部の青年将校に暴走によって、上長殺害や偽の指令を発してクーデターを実行します。

天皇をお守りする使命である近衛師団が、偽命令によって宮中に立てこもるんだから、何やってるのかわからないですね。

それぞれの立場で熱い男たち

陸軍大臣役 三船敏郎

本作の俳優陣は超豪華!主役は陸軍大臣役の三船敏郎。天皇体制を維持せんと、当初はポツダム宣言に消極的な立場であり、天皇の聖断後は徹底抗戦を訴える陸軍との板挟みになる立場でもある。あまり多くを語るキャラではないのですが、三船敏郎の顔力・目力によって、観る者に彼が考えていこと想像させる余地を与えてくれます。

ポツダム宣言受諾に関して納得いかない陸軍省員に対して、「文句があるなら俺の屍を越えてゆけ」と一喝。内閣最後の仕事を終えた後、自室で切腹し自害します。帝国軍人らしい最後…と言えばよいでしょうか。

陸軍青年将校役 黒沢年雄

黒沢年雄と言えば、私ら世代でいうとバラエティー番組のコメンテーターで、妙なニット帽をかぶっているオジサン、または「時には娼婦のように」(改めてすごいタイトル!)ぐらいのイメージしかないのですが、本作の黒沢年雄は超アツイ!暑苦しい!いつ・なんどき・大量の汗をかいていて上半身はぐっしょり汗が染みている!

とにかく何としてでも戦争を継続したい、そして天皇体制を維持したい彼は、クーデターを画策し頼りになる仲間や援軍を集めていきます。彼の熱意にほだされて協力するものも現れますが、とにかく一本気すぎる。自分の想いに一途で、熱い気持ちがありすぎて周りが見えていない。俺たちが決起したら他の師団も決起してくれるという都合の良さ、天皇は騙されているという謎理論。

玉音放送を阻止しようと録音盤を探し、見つからないとみるや放送局へ突撃し、自分の想いを放送させろ!と扇動放送を要求し、放送関係者に拳銃を突き立てる。偽指令がバレてクーデター計画失敗、ここまでかとみるや、早朝の都心で馬にまたがり「檄!」と書かれたビラをまき自害!(いつ用意したんや!)

ただ、私には”ヤバい人”というよりは”熱い人”に映ったんですよね。

横浜警備隊長役 天本英世

対するこちらはヤバい人と感じてしまった。

横浜新子安の警備隊がクーデターの命を受けて、都心へ馳せ参じます。この隊長役の天本英世、ずいぶん間抜け風なしゃべり方で、軍国主義の権化みたいな人。鈴木貫太郎首相探して官邸へ突撃、いないとみるや私邸へ乗り込み部隊を引き連れて自宅へ乱入します。かろうじて「首相以外には手を出すな~」というものの、ここにもいないことが判明すると火を放ちます。この出来事は史実通りですが、天本英世の演技がぶっ飛んでます。なんだか祭りが起きてそれに乗じて騒いでいるような、そんなヤバさ。

さいごに

ポツダム宣言や玉音放送についておぼろげながら知ってはいましたが、こうした経緯で終戦を迎えたこと、そしてそれを阻止しようとクーデター騒ぎがあったことは知りませんでした。

命の価値は、時代や文化、宗教によって必ずしも優先されないのかもしれませんが、当時の日本からすると到底受け入れがたかったであろう無条件降伏を受け入れ、今に続く日本人の命を繋いでくれたことに感謝しながら、これからも平和な日本を守っていくために自分が何ができるのか、改めて考えさせられる映画でした。

PS 昭和天皇も登場しますが、真正面からデーンと出てくることはなく、後ろ姿だったり人影で顔が映らなかったりと、御存命時の映画ということもあり最大限の配慮がなされているとのことです。

新文芸坐ポスターより

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