和製ファム・ファタール!名美と村木の連綿と続く物語『天使のはらわた 赤い教室/赤い眩暈』を観た!

今回は、日活ロマンポルノ作品の紹介です。いつもの池袋・新文芸坐で、石井隆監督の追悼特集として組まれた上映プログラムから、『天使のはらわた 赤い教室』『天使のはらわた 赤い眩暈』見てきましたので、紹介したいと思います!

エロ映画の猥雑さが出ていて最高です。
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日活ロマンポルノとは

日活ロマンポルノとは、簡単に言うとエロ映画。確かに女性の裸がたくさん出てきますし、性交シーンもたくさんあります。そういう意味ではポルノなんですけど、いやはやその一言では片付けられない作品性・芸術性・奥深さがあるのが特徴です。

男性の欲望を満たすだけのような作品があるかもしれませんが、現在において名作だと語り継がれている日活ロマンポルノ作品は、エロい作品というよりは、多種多様なテーマで、場合によっては目を背けたくなるような、人間の業や情念に満ちた男と女の物語だったりします

このエロ飽和時代になった現代の日本で、日活ロマンポルノを”エロ映画”という視点で観ている人は、相当少ないんじゃないですかね。

また、ロマンポルノ制作にあたっては、裸さえだせば内容は問わないといった不文律があったようで、映画製作者の自主性が発揮しやすい状況だったようです。そのため、野心的な芸術映画として後年になっても通用するような作品が登場した、とも言えます。

現在、主流になっているビジネス世界の若手育成方法ととても近しいですね。

しかし、ロマンポルノには映画創作上のメリットもあった。予算も限られ、短納期の量産体制という厳しい環境ではあったが、後にある映画監督が「日活ロマンポルノでは、裸さえ出てくれば、どんなストーリーや演出でも、何も言われず自由に制作できた」と語った様に、「10分に1回の性行為シーンを作る」「上映時間は70分程度」「モザイク・ボカシは入らない様に対処する」など、所定のフォーマットだけ確実に押さえておけば、後は表現の自由を尊重した、自由度の高い映画作品作りを任された。キャリアの浅い監督や脚本・演出の担当者にとっては、自身の作家性を遺憾なく発揮できる稀少な場であり、結果論ではあるが、日活にとっても斜陽期の日本映画界の中にあって、崩壊してゆくスタジオシステムを維持し続け、映画会社として、若手映画クリエイターの実践的な育成を手がけるための重要な場となった。

Wikipediaから引用

私は70~80年代の邦画が好きで、アメリカンニューシネマ的な退廃的で後味の悪いエンディングの映画が好きなんですが、そうした映画はポルノ映画出身の監督が多いですよね。そんな作品を深堀していくうちに、日活ロマンポルノにぶち当たったというわけです。

それから、今回の『天使のはらわた』は、私の邦画バイブル「アナーキー日本映画史」に掲載されているというのもポイントです。

この本は墓場まで持っていきます。

『天使のはらわた』シリーズ

”天使のはらわた”ってすごい言葉ですよね…。ここでいうはらわたは、贓物を指すのか、それとも”心”や”中身”などの比喩なのか。はらわた系の映画は、『悪魔のはらわた』『戦争のはらわた』がありますが、『天使のはらわた』…いったいどんな内容なのか気になってしまう、人を惹きつける力があるタイトルですね。

『天使のはらわた』は、もともとは劇画漫画家として活躍されていた石井隆監督の原作漫画(監督、としているのは後に映画監督になるからです)。その漫画シリーズが日活ロマンポルノとして映画化されたもので、『天使のはらわた』シリーズは日活ロマンポルノで5作品が作られました。ストーリーや登場人物について、それぞれの作品に関連性はないのですが、不幸な境遇でしだいに堕落していく女性・名美と、名美に出会ったことにより人生が狂ってしまう男性・村木がシリーズ共通の主人公です。

ファム・ファタールという言葉がありますが、『天使のはらわた』シリーズの名美は、まさに和製ファム・ファタールと呼ぶにふさわしい登場人物です。

ファム・ファタール(仏: femme fatale)(或いはファム・ファタル)は、男にとっての「運命の女」(運命的な恋愛の相手、もしくは赤い糸で結ばれた相手)というのが元々の意味であるが、同時に「男を破滅させる魔性の女」のことを指す場合が多い。

Wikipediaから引用

石井隆監督の個人事務所名も、ファム・ファタールなんだとか。

『天使のはらわた 赤い教室』

『天使のはらわた 赤い教室』(1979年)は、監督:曾根中生・脚本:石井隆の作品です。

名美役は水原ゆう紀、村木役は蟹江敬三。蟹江敬三が出てきたら、私の中では当たりなんです。『十七歳の地図』『さらば愛しき大地』『文学賞殺人事件』などなど、蟹江敬三のダメなオッサン役が大好きなんですよ。どーしようもないダメなオッサンっぷりが素晴らしい。

本作はダメなオッサンとまでは言い切れないけど、零細エロ本会社の社長で、差別される・親には言えない仕事、と劇中で告白しています。

それでは、ストーリーを解説しましょう。

ストーリー(ネタバレ注意)

冒頭、学校の教室で、教師(のちに教育実習生ということがわかります)名美が生徒複数人に強姦されるシーンから始まります。抵抗虚しく、凍てついたような諦めの表情を浮かべながら、ただ時間が過ぎるのを耐える名美。その後、画面に<完>の文字が出てきてこれがブルーフィルム(今でいうエロ動画)であることが明かされます。

密室のブルーフィルム上映会で村木は食い入るようにその画面を凝視していました。上映後、村木は主催者に、どうしてもブルーフィルムのモデルに会いたいので居場所を教えてくれと詰め寄りますが、当然断られてしまいます。

村木はしがないエロ本出版社「ポルノック社」の社長で、数人のスタッフを抱え、都度モデルを用意しエロ写真撮影をしていますが、例のブルーフィルムを観てしまってから、どうも仕事が手につかない。そんなある時、撮影で使用しているラブホテルの受付で、偶然「フィルムの女」を見つけます。村木は会って話がしたいと電話し、公園に呼び出すことに成功。「フィルムの女」に対して、ぜひモデルとして使いたいとお願いしたところ、女から場所を変えようと言われ、連れ込み旅館に行くことになります。

自分の体が目的なら抱けばいいと、女はあばずれたように村木に詰め寄ります。フィルムを見たと寄ってきた男が多数いるといい、あなたも同類だろうと吐き捨てます。村木は自分がエロ本屋であることを告げ、「フィルムの中のあなたに惚れてしまった」とモデルになってくれるよう改めて懇願しますが、次第にフィルムの内容は”本物”であったことが判明します。それでも、村木は自分がいかに本気であるかを説き、明日改めて会う約束をします。女は自分の名前が名美であることを伝え、村木は去っていきます。

翌日、運の悪いことに、ポルノック社で使ったモデルが未成年だったことから、村木は警察にパクられてしまい、拘留されます。土砂降りの雨の中、傘もささずに約束の時間になってもこない村木を待つ名美。3時間も待ったその後、行きずりの男とホテルに行き狂ったようにまぐわいます。名美は男の精気を吸いとるように、何度も何度も男の体を求めるのでした。

それから3年後。村木には家族ができ、娘ナミも誕生していました。ポルノック社は少し規模を大きくしたものの、相変わらずエロ本を作っており、撮影の打ち上げで訪れた場末のスナックで、偶然にも名美を発見。店に入り村木は、「あのとき待ち合わせに行けなかったこと」をしつこく名美に説明しますが、店員から袋叩きに合ってしまいます。

次の日、店では名美の愛人らしき男と堕落した生活を送っていました。男は元歌手で、自身のレコードを見つめながら、「こんなはずの人生ではなかった」と述懐しながらも、名美に溺れていきます。性懲りもなく、再度店を訪れた村木は、またもや男にボコボコにされてしまい意識を失います。

目が覚めると、ふすまの隙間からは男女の営みの声が聞こえてきました。名美とバーの男がまぐわっていて、周りは中年の男に囲まれています。まな板ショーよろしく、群がる男に「ひとり3万でこの女を好きにしていい」とバーの男は言い、村木は輪姦現場を見せられてしまいます。

ラストシーン。外に出た村木は、名美に向かって改めて「約束を守れなかったこと」を詫びます。そして、あんな所に居てはいけない、俺と一緒に行こう!と手を差し伸べますが、名美は村木に「私のところにくる?」と誘います。村木はその誘いには乗れず、二人はすれ違って行くのでした。

考察や感想

名美は例のブルーフィルムから人生が狂ってしまいました。手には自殺未遂の傷があり、フィルムを見たと言い寄ってくる男がいる中で、誰とでも寝る男を狂わせる女になってしまいました。

村木は半ば名美に取り憑かれるように惹かれていきます。それは性欲の対象ではなく、あくまで自分の作品のモデルとしてではありましたが、名美に魅力に狂わされていきます。(自分の娘にナミって名前つけるんだからよっぽどです)

名美にとって村木は、人生を立て直す最後のチャンスだったのかもしれません。この人に、と賭けたのに、村木が約束の場所に来なかったことで、さらに自暴自棄になってしまったのではないでしょうか。そこから、さらにズルズルと堕ちていき、男を食い荒らす獣のようになってしまった。名美はかわいそうな女性なんですが、ある意味では例のブルーフィルムによって”目覚めてしまった”という見方もできるかもしれません。

それから、元歌手のバーの男、クスリをやっているシーンはないのですが、まさに名美にシャブ漬けにされているような印象を受けました。立ち直りたくても元に戻れない、名美を体を求めてしまう、まさに魔性であり、ファム・ファタールです。

この映画の衝撃的なシーンは、やはりバーで目撃するふすま越しの輪姦ではないでしょうか。3年後の名美はさらに表情が乏しく、死んでいるような眼をしていました。バーの男との淫行を見世物にし、さらに名美をまわさせて金にし、名美ひとりでは”足らない”となると、急に地下から出てくる、拉致されたらしきセーラー服の女性の存在も、この空間の異常さを物語っています

わかりやすく・丁寧な演出は少ないのですが、それがまた観るものへ扇動的に訴えかけます。特に名美の素性や過去は、ほとんど言葉では語られていませんが、村木の表情や情景などでこちらの想像力を掻き立てますね。

サブタイトルの赤い教室。別に教室が赤いわけではないのですが、ところどころで赤が印象的に使われているのもポイント(情婦化した名美のワンピースなど)。でもタイトルは青だった…。ブルーフィルムだから?

ラストの村木が名美と対峙するシーン。結局、村木と名美の関係性は再び交わることがなく物語が終了します。どこまでも堕ちてしまいもう戻ってこれない名美と、名美の呪縛を断った村木。この辺の男女の機微もうまく描かれているなあと感じました。

この映画は”その系統”が好きな方ならメチャオススメです!エロシーンはありますが、そんなものには期待せず、物語の本質をぜひ楽しんでもらいたいですね。

『天使のはらわた 赤い眩暈』

<赤い教室>と比較するとかなりおとなしい作り。80年代Vシネマのエロシーン多め版といった印象。名美役はAV嬢の桂木麻也子、村木役は竹中直人、若い!

名美役がAV嬢なので、エロシーンがほぼAVのそれです。大胆なシーンや丸裸や局部のボカシもありますが、本作の名美は裸になることもエロシーンも厭わない!という感じがして、これは<赤い教室>の村木だったらモデルには欲しがらないだろうなあと思いますね。

ラストシーンが急展開すぎますが、全体的にちょっとキタノ映画っぽい(本作の方が時系列的には先の作品ですが)。こちらの名美と村木の物語は、ひょんなことから出会ってしまった逃避行なので、犯罪→奇妙な愛に発展するところが、竹中直人ということもあり、『完全なる飼育』のようでもあります。

個人的にはエロシーンが激しくやや冗長なので、もっと観やすくなればと思ってしまった。本作は石井隆監督の初作品のようですが、2本続けてみると<赤い教室>の方がインパクト大!でした。

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