こんにちは。野良プロレスコラムニストのアツコアツオです。
金曜日は闘いのワンダーランド!
毎週金曜日にお届けする『NJPW今日は何の日』のコーナーです。
新日本プロレスワールドのアーカイブにある過去の試合から、アツコアツオが独断と偏見で選んだ1試合を紹介します!
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6月2日は何の日?
今回は、1983年6月2日に蔵前国技館で行われたこの試合をテーマに考えてみることにしましょう!
多数の候補試合があるならば、できるだけマイナーな試合を選んできた当コーナーですが…。
今日ばかりはこの試合を取り上げざるをえない!
語りに語りつくされて、そしていまだに語られる伝説の一戦、第1回IWGP優勝決定戦のアントニオ猪木VSハルク・ホーガンです!
この試合は”定説”が事実なのだとすれば、日本プロレス史、いや世界プロレス史において異例中の異例の結末ではないでしょうか…
IWGPリーグ戦
以前、IWGP構想についてはコチラの記事でも紹介しましたが、構想から約2年半の時を経てついに実現したIWGP決勝リーグ戦。今ではIWGPというとチャンピオンベルトという印象ですが、元々は世界統一を目指した最強決定リーグ戦だったわけです。
1983年5月6日の福岡スポーツセンターを皮切りに全国サーキットの末、ついに6月2日、蔵前国技館で優勝決定戦を迎えるに至りました。
リーグ戦に勝ち残ったのは日本代表:アントニオ猪木、そして北米代表:ハルク・ホーガン。
IWGPとは当時主流派だったNWA派閥に対抗する、新日本プロレスによる猪木を神格化するための一大イベントであり、そんな経緯は誰の目にも明らかだったでしょうし、誰もが猪木の優勝を疑わなかったはず。
…結果は、ホーガンのアックスボンバーによる猪木の失神KOという予想外の結果に終わりました。
猪木のための一大構想がハプニングによって台無しになったしまった一戦で、かたや猪木を破ったハルク・ホーガンは、ますますスターダムをのし上がっていくことになるのです。
ここからは、あくまで”定説”を元に私の妄想も交えながら考察し、真相に迫ってみましょう。
覆った結末
この試合、アントニオ猪木が勝つはずだった。そう言い切っても差し支えないでしょう。
しかし、試合終盤にエプロンサイドで放たれた”超人”ハルク・ホーガンの強烈なアックスボンバーを受けた猪木は失神してしまい、坂口征二や星野勘太郎ほか多くのセコンド陣の呼びかけに答えることがないまま…。
無理やりに起こされてリングに押し込まれたものの、ついには息を吹き返すことはありませんでした。
衝撃の猪木の舌出し失神KO…!
まさかのアクシデントにより、ハルク・ホーガンが構想2年半をかけた、世界統一に向けたリーグ戦の覇者となりました。
猪木が勝つシナリオが変わってしまった1戦という見方で間違いないでしょう。
ブック破り
この試合は、当時営業本部長であった新間氏を中心となって、新日本プロレスが猪木を祭り上げるために仕掛けた一大プロジェクトのオーラスであり、まさに大メインクライマックス。
猪木優勝で大団円を迎えるはずの優勝決定戦の試合中に、猪木自らがその神輿から降りたという、いわば「たった一人の逆ブック破り」といえるでしょう。
一般的にファンの間でいう「ブック破り」というのは、試合の結末を取り決めていたにもかかわらず、一方の選手が裏切ったり反故にしたりして真剣勝負を仕掛け、試合が成立しなくなったり試合の結末が変わってしまうことをいいますよね。
古くは巌流島の対決「力道山VS木村政彦」、衝撃のシュートマッチ「1.4橋本VS小川」が代表例でしょうか。(「高田VS北尾」は北尾の技術不足によるアクシデントによって結末が変わったことから、同列で扱われることは少ない)
それらの試合は勝とうとすることで試合をぶち壊した「ブック破り」だとすれば、猪木の場合は、団体一丸となって築き上げてきた猪木最強伝説を成し遂げるためのIWGPを、自らの意志で破壊し台無しにしてしまった「逆ブック破り」なのです。
しかも誰にも打ち明けずに、たった一人で自分が負ける結末に変えてしまった…。
こんなレスラーはアントニオ猪木なくして他にはいませんよね…。
モントリオール事件も吹っ飛ぶこの単独の造反劇ですが、近代プロレス史においてこんな出来事は他にはないのではないでしょうか。
なぜ猪木はIWGPを自ら破壊したのか
では、なぜ猪木はIWGPを自ら破壊したのか。
猪木は対立構造にあった全日本プロレス流のショーマンシップを嫌い、プロレスなんて八百長と評する世間とも闘いながら、従来のプロレスとは異なる異種格闘技戦なども仕掛けていった。実際に、いくつかリアルファイトも経験していますよね。
そしてまた、プロレスの予定調和を嫌った猪木は、自らが病院送りになることでプロレスが命がけであることを世間に示し、プロレスが”リアル”であること証明したのかもしれません。
結果、猪木が病院送りになったことで一般マスコミでも大きく報じられ社会的な出来事になりましたし、果ては現代においても、様々な憶測を交えつつスキャンダラスな「逆ブック破り」として語り継がれているわけです。
また、猪木は借金取りから逃げたかったという噂もありますが(笑)いずれにしても、猪木は自らの意志で大団円の流れをぶち壊してしまったのです。
ここで、以前紹介しました『闘魂と王道』堀江ガンツ著のターザン山本!氏の総括を引用しましょう。
猪木も社長としては万々歳なわけだけど、リング上のアーティストとしては、全国を回りながら「このまま俺が優勝したらつまらないな」と感じたと思う。
(中略)
そこで猪木の中で悪魔の囁きがあったわけですよ。そして、”真の世界一決定”という最高の予定調和を自ら覆しにいった。あとは神輿に乗るだけなのに、その神輿自体をぶっ壊したんです。この悪魔的な裏切りこそが、猪木ですよ!
『闘魂と王道』堀江ガンツ著 P375-376から引用
この試合の映像を見ると、観客の熱気が異常なんですよ。対戦相手のホーガンにも声援は飛ぶんですが、猪木への声援が半端じゃない。誰もが猪木の優勝を願っていたし、また信じ込んでいたんでしょう。
これは私の完全な妄想なのですが、猪木は自分がアクシデントのフリをして負けることを、試合中に思いついて急に実行したんじゃないか、と。
とにかく爆発しそうな猪木への声援を聞いて、「自分が負けた方が面白いな」と思いついちゃったんじゃないか。ターザン山本!氏の言葉を借りると、猪木の中の悪魔が囁いてしまったんじゃないかなあ。
関係者のリアクション
猪木を”ノシてしまった”ホーガンは、なかなかリングに入ってこない猪木をよそに「イチバーン!」とアピールしながら間を繋ぎますが、猪木の様子がおかしいとなると徐々に表情が曇ってきます…。
微動だにしない猪木。ついに試合終了のゴングが鳴らされます。試合はどう見ても猪木のKO負け。ホーガンは喜ぶフリをしながらも、眉をしかめてミスター高橋に声を掛けています。
「イチバーン!…」カラ元気というかなんというか…まったくうれしそうじゃないホーガン。真相を知ったら、「イノキは狂っている」と思ったんじゃないですかね(笑)
リング上には坂口征二、新間本部長、ミスター高橋らがなにやら「どうなってるの!?」と言葉を交わしている様子。
猪木の狸寝入りにどれだけの関係者が気づいていたんでしょうか?
一向に起きない猪木に対して、祈りにも似た観衆の超猪木コール!
ホーガンは「猪木がダウンしているんだから静かに」とジェスチャーで伝えていて、かなり紳士的な対応なのですが…。この後のベルト授与式ではホーガンは泣きそうになっています。
「試合を壊してしまった…ヤバいことになってしまった…」とでも言いたげな表情で、喜ぶ様子もなく新間氏と握手しています。(騙されたホーガンがかわいそうだ!)
担架で運ばれていった猪木はこの後病院へ向かったのですが、一説によると病院まで担架に乗っていたのは前田日明説があったり、病院で寝ていたのは猪木実弟の啓介氏説もあるし、藤原喜明は「また猪木が芝居をしている」と冷静に状況を理解していた説なんかもあって、いったい何が真実かわかりません…。
たった一人ですべてを裏切ってしまった猪木、この余波は決して小さいものではありませんでした。
事件の余波
翌日、「人間不信」と書き残し姿をくらました坂口征二。山本小鉄らのクーデター未遂事件が勃発し、タイガーマスクは電撃引退。翌年には長州力ら維新軍は独立し、そしてUWFも生まれることになった。
本業とは異なる事業への投資不振などカネに対する不信感もあったんでしょうけど、リング内の事まで身内を騙すような結果になったことで、社内的な求心力を失っていくきっかけになってしまったんじゃないでしょうか。
ファンの予想を裏切っていく
猪木が勝つと信じ込んだ予想を見事に裏切ってみせた猪木。
そんな内幕に私たちファンは妄想を膨らませますが、「底が丸見えの底なし沼」であるプロレスは、そうした観る者の邪推すらもさらに裏切ってくるものかもしれません。すべてを包括したものがプロレスであり、また真実があるとすれば、それはリング上で闘うレスラーにしかわからないのかもしれませんね。
この一戦、試合内容には触れませんでしたが、アクシデントがあるまではややホーガンが押してはいるものの一進一退の攻防になっていますので、試合内容とアクシデント後の動き、2度美味しい試合になっています。
もしまだこの試合を見たことがない方は、新日本プロレスの歴史・そして定説を踏まえてみるとアントニオ猪木の悪魔っぷりを垣間見ることができますので、ぜひ視聴してみてくださいね。
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