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本日の一冊はコチラ。
『兄 私だけが知るアントニオ猪木』



アントニオ猪木が史上最も偉大なプロレスラーであったことは間違いなく、そんなことに異論の余地はない。そして、それだけがアントニオ猪木の魅力ではないことも事実。
「新宿伊勢丹事件」や「アリ戦」のような世間を巻き込む巨大な仕掛けは常人離れしているし、「舌出し失神事件」や「TPG暴動」などテーブルをひっくり返すようなある種の胆力も魅力的だ。
そして、成功に安住することなくチャレンジしていく山師的ビジネスのデカさも驚異的で、常識では考えられないギャンブラーな一面も持ち合わせていた。
本書は、アントニオ猪木の実弟である猪木啓介氏から見たアントニオ猪木の実像である。プロレスファンにとってお馴染みの出来事を補足するエピソードが充実しており、さらには世間から姿を消した晩年の猪木を取り巻く環境にも大変詳しい。
アントニオ猪木は現役引退後に「アントニオ猪木自伝」を執筆しており(また機会があったら紹介したい)、重複する部分は丸々猪木史のB面的要素を持っている。
猪木が語る猪木史が「自伝」だとすれば、本書は「限りなく近い存在から見た猪木史」なのである。
横浜時代~ブラジル移民~力道山によるスカウトは「自伝」と大きな差はないものの、啓介氏ははっきりと猪木寛至はプロレスラーになることを目標にしていたと書いているし、偶然力道山と出会ってスカウトされたわけではないことがわかる。用意周到に力道山へ会う機会を探っていたことが明かされている。
そして日本プロレス離脱時の最終戦では、ユセフ・トルコと行動を供にしていたことを明かし、猪木派の撤収の際はナイフを持たされていたなど物騒なエピソードも登場。新日本プロレスでは営業部員として活躍し、当時のエピソードが満載で黎明期を家族とレスラー達で支えた美しい逸話は心を打たれる。
新宿伊勢丹事件には「たまたま」同行しており、限りなく真相に近い推測はマニアの考察をはかどらせるだろうし、氏が大きく関与(というかやらされていた?)みんな大好きアントンハイセルの実態も明らかになっている。
舌出し事件はほぼ解読されたようなものだろうし、こうした猪木的仕掛けの舞台裏が垣間見えたりもする。
ただ、猪木家では兄弟であってもケーフェイが徹底されていたようで、啓介氏と猪木の間ではプロレスのアングルめいた話題は不可侵だったようだ。
さて、本書でもっとも刺激的なのはやはり「ズッコさん」関連であろう。
2000年代に入り突如忍び寄ってきたカメラマンの女性は、結果的に猪木を軟禁せしめるまでに女帝化し、兄弟や実子さえも遠ざけようとし外部の者を近づけなかったという。
次第に孤立し関係者とも疎遠になっていったという猪木の晩年と最後の2か月間の知られざる奪還劇は、近親者にしか書けないリアリティがある。
特に「ズッコさん」絡みがそうだが、決して一方的に断罪したり決めつけたりせず私的な目線であることを強調しており、全編にわたって啓介氏のお人柄が出ていると思う。
「ズッコさん」は献身的に猪木を支え、自らの死後もなおアントニオ猪木のお世話をするように女性スタッフに命じていたようだし、目線が変われば評価も変わるものである。あくまで啓介氏や家族から見た「ズッコさん」と猪木の晩年として扱えばよいだろうし、啓介氏の文脈からそう感じた。
今どれだけの需要があるのかわからないが、「美人秘書・佐藤久美子」も登場。せっかく政界編もあるのだから、もっと猪木快守氏のトンデモ逸話も読んでみたかったものである。
いずれにしても、真の猪木像に近づく名著であることは間違いなく、猪木に魅了され踊らされてきた昭和プロレスファンには必読のバイブルになるだろう。
内容★★★★☆
赤裸々★★☆☆☆
ケーフェイ★★☆☆☆
レア度★☆☆☆☆
必読度★★★☆☆
一言コメント:
「プロレスは試合前から勝敗が決められている一種のショー」by啓介氏

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