外国人の冤罪、そして被害女性の闇…平成の有名未解決事件に迫った傑作ルポ!書評『東電OL殺人事件』佐野眞一著

こんにちは!アツコアツオです。

今回はルポルタージュ『東電OL殺人事件』佐野眞一著を紹介したいと思います!

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東電OL殺人事件

東電OL殺人事件とは、1997年3月9日に東京電力の女性社員が殺害され、ネパール人被疑者が逮捕された事件を指します。

事件当時、私は中学生だったので、リアルタイムで本事件の報道をぜんぜん覚えていないのですが、なんとなく事件の輪郭だけは知っていたんです。事件の被害者である女性は、東京電力のエリート社員であるにもかかわらず、娼婦としての顔も持っていたということに強烈な違和感を感じてました。

なぜ大手企業に勤める女性が売春などしていたのか…。

古本屋で見つけて、ストレート過ぎるタイトルにハッと思い手に取ってしまいました。

読書家歴が浅い私ですが、(殺人事件を題材にしているのに不適切な表現かとは思いますが)あまりの面白さに、単行本444ページを3日間で読み終えてしまいました。

有名な未解決事件

今から20年以上前の事件に”ネタバレ”が該当するのかは疑問ですが、この事件は2023年1月現在、未解決事件になっています。

本事件は、外国人労働者が不当に犯人に仕立て上げられた冤罪事件であることと、被害者がなぜ売春をしていたのかというミステリアスさから、今なお様々な人を惹きつけて止みません。

彼女の手帳には、想像を絶する堕落の日々が記されていたー。

エリートOLは、なぜ娼婦として殺されたのか?逮捕されたネパール人は真犯人なのか?
すべての現場・関係者・公判への克明な取材から明るみに出た真実とは…。

被害者の底無き心の闇と、警察捜査の信じがたい虚妄を強烈に照射。

現代日本の腐蝕を浮き彫りにする事件ノンフィクションの金字塔!

本書帯から引用

有名な事件なので、ソチラ系のYoutuberによって紹介や解説・考察がなされています。私は読了後にその手の動画をみたのですが、要点は抑えてあるもののなんとも味気ない内容でした。

まったく核心に迫っておらず、センセーショナルな部分のみを取り上げているように感じてしまいました。(しかも被害女性の写真が違うものもある)

確かに、Youtubeで見ると一瞬で概要を把握することができます。しかし、のめり込むようにページをめくっていく、面白い本に出会った時の読書ハイというか、ある種の疾走感をぜひ体験してみてほしいですね。

ルポルタージュ初読書の私なりに本書の特徴を紹介できればと思います。

事件の輪郭と闇

この事件は「犯人は誰か」ということよりも、「被害者の特異性」にフォーカスされた事件だったといいます。事件当時はマスコミによって、被害女性のスキャンダラスな背景ばかりがクローズアップされ、プライバシーには配慮されることがない過激な報道がなされたようです。いまでいうセカンドレイプというところでしょうか。

本書は丁寧に周辺を徹底的に取材し、探偵さながらに事件の輪郭を浮き彫りにしていきます。事件が起きたラブホテル街円山町と電力会社の因縁、逮捕されたネパール人コミニティ、目撃者たちの生い立ち、検察の決め打ち的な求刑、そしてエリート社員の被害女性がなぜ売春婦として体を売ることになったのか。

逮捕されたネパール人はどうも冤罪の可能性が高いと踏んだ著者は、アリバイ立証のために、ネパール人の勤務先から事件現場までを実際に移動してみたり、不法残留が発覚して国外退去になった同居人にインタビューするためにネパールへ向かったり…。

ネパール取材は旅行記としてもなかなかにスリリングで面白いです。

円山町に集う人たち

被害者・被疑者・目撃者など、関係者の人生を深堀していくと、それぞれに抱えている暗部があって、事件現場の円山町の磁場に引き寄せられた人たちの人間模様も読みどころのひとつ

冤罪であった被疑者は、事件に関しては裁判で清廉潔白と証明されました。しかし、そもそも不法滞在者だったり、過去に被害者を買春していたり、通勤定期券をキセルしていたりと、異国の地である日本で生き抜くために、大小の悪事を働いていたようです(本書では小堕落と表現)。

本書は一見、冤罪の可能性が高い殺人事件を取材したルポルタージュと思いきや、真髄は被害女性の闇に迫る「第四部 黒いヒロイン」にあるといっても間違いないでしょう

非常に丁寧に事件の詳細、被疑者の関係者や目撃者の証言、そして数年にわたる裁判の様子を書き綴っていますので、第四部=実質的な最終章にたどり着くにはかなり読み進めなければなりませんが、じっくりと想像しながら読んでいってほしいですね。

前半で語られる被害女性の(大変失礼な言い方ですが)奇行の数々、そして、そもそもなぜ売春行為に走ってしまったのかは、当然回答があるわけではありませんし事実かどうかはわかりませんが、「第四部 黒いヒロイン」によって、私なりにはかなり理解することが出来ました

解決まではフォローされていない

この事件がいまだに語られる理由は3つの視点があると思っていて、それを分けて考えないとチグハグになってしまう気がします。

①外国人労働者の冤罪事件
②エリートOLはなぜ売春していたか
③未解決事件、真犯人は誰か

本書では、被疑者のネパール人に一審無罪を言い渡されるところで終わっています。(実はその後、控訴審と上告審を経て、再審請求が認められて15年後に無罪が確定しています)

密着取材により①の情報がたくさんあって、そして可能な限り②の核心にも迫っていますが、③に関しては本書ではほとんどフォローされていませんでしたのでご注意を

私にとっての興味は②であったため、かなり納得できた読後感でしたが、これは読者によってマチマチでしょうね。

さいごに

世紀末の日本で、自ら望んだかのように圧倒的堕落へ突き進むエリート東電女性社員。

そして、本書は円山町界隈の登場人物たちがその磁場に引き寄せられた人生の記録でもあり、そうした意味でも単に事件の真相を追うだけではない、社会派ドキュメントなんだと感じました。

20年以上前の書籍ですが、ルポルタージュ本としてはまったく古さを感じさせない一冊です。

文庫本や電子版も発売されていますので、今でも手に取りやすいですよ。(単行本は古本屋さんで手に入りやすいです)

著:佐野眞一
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