派手さはないけど特攻兵を通じて戦争のもの悲しさを考える、岡本喜八監督『肉弾』を観た!

今回は池袋・新文芸坐で、岡本喜八監督の戦争特集として組まれた上映プログラムから、『日本のいちばん長い日』『肉弾』を観てきましたので、それぞれ紹介したいと思います!

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岡本喜八監督の戦争映画

日本のいちばん長い日』との2本立てで観賞しました。『日本のいちばん長い日』についても記事を書いていますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

別記事で紹介しました『日本のいちばん長い日』は、超マクロ目線でみる終戦映画だと感じましたが、本作『肉弾』は一体どんな映画なのか、ワクワクしながら観賞しました。

『肉弾』

コチラの映画も予備知識まったくナシ、しいて言えばATG映画であることと低予算作品であることは把握していましたが、話のスジはまったく知らず観賞。

※ATGとは、大手の東宝とか東映とかではなく、日本アートシアターギルドという独立系の映画製作・配給会社のことです。

なんだか不思議な映画ポスターです。

観賞後に調べたところ、本作は『日本のいちばん長い日』の翌年に撮られており、岡本喜八監督が撮りたかったものを、自費を投入して撮った映画だそうですね。

たしかに『日本のいちばん長い日』よりこちらの方が岡本喜八監督っぽい作品と感じました。

☑ここは見てほしい!オススメシーン

・つかみどころのない主人公”あいつ”が戦う
・理由つかの間の休息で出会う少年2人との交流
・ドラム缶で叫ぶラストシーン

『肉弾』のあらすじ(ネタバレ注意)

時は終戦間近。予科練の学徒兵である主人公”あいつ”。仲間のために食糧倉庫に忍びこんだことを上官に見つかってしまい絞られる。牛の反芻だと言って飲み込んだものを胃から出し再び飲み込んだところ、豚だと罵られ裸で過ごすよう命じられる。

そんなころ、予科練部隊では特攻命令が下り、急に牛や豚から軍神になることになった”アイツ”は、出撃前に24時間の自由行動が与えられます。さりとてするべきこともなく、なんとなく女郎屋へ向かったところ、牛や豚、怪物のような遊女ばかり。初めては観音様のような女性をと途中に出会った古本屋の主人にいわれていたこともあり、店に入るのを躊躇していると、まさに観音様と見まがうおさげの女学生を発見する。

女学生は数学の因数分解に苦戦しており、”あいつ”が教えてあげると解くことができた。女学生が遊女と勘違いした”あいつ”は、店に入るが、結局”前掛けのおばさん”に筆おろしをされトボトボと店を出ていった。

雨の中、”あいつ”からもらったチップで古本屋へ向かった女学生は、ばったり”あいつ”と遭遇する。雨宿りのボロ屋で互いの理解を深めていき、ねずみ年生まれとうさぎ年生まれから、互いにねずみさんとうさぎと呼び合うことになる。そんな中、女学生の家族がここで焼死したことを知る。二人は体を重ね、”あいつ”は死ぬ理由ができたと、うさぎのために国を守って死ぬことを誓う。

翌朝、砂浜に壕を掘って上陸してくる敵軍の戦車のどてっぱらに、爆弾を持って特攻する練習をする”アイツ”。空襲でB29がやってきて、その後砂浜で交流があった幼い兄弟の兄と、うさぎが死んだことを知った。部隊長から魚雷付きドラム缶に潜伏し、敵艦隊が来たら突撃するように命じられ、ドラム缶でその時が来るのを伺い潜伏するが、数日漂流したあと、終戦後の東京湾で敵艦と見間違った汚わい船に拾われる。

助かったのだが途中でけん引ロープが切れてしまう。それでも”あいつ”は抵抗することなく、ドラム缶の中でうさぎへの想いを叫び続けるのです。

戦争シーンがない戦争映画

本作は低予算ということもあり、派手な戦争シーンはありませんし、残虐なシーンもないモノクロ映画です。仲代達也のナレーションにのって、第三者的視点で”あいつ”について語られていきます。「どうってことはない。それだけのことだ。」と言った具合に、”あいつ”が自らの運命と行く末を受け入れてるように感じました。

ただ、そのなかでぼんやりと、(学生の俺は何のために死んでいくんだろう)と、自身で死ぬ理由が明確になっておらず飄々としているのですが、うさぎと出会うことで、その後の”あいつ”は死ぬ覚悟が芽生えたんでしょう。そしてさらに、うさぎ達が空襲で死んだあとは、敵に対する闘争と憎悪が明確になったのではないでしょうか。

前半、時折ギャグっぽくインサートされるマンガ絵やコミカルな演出は、戦争は悲惨でむごい!恐ろしい!というアプローチではなく、”あいつ”の冷めた雰囲気とナレーションから、戦争など馬鹿らしい・アホらしいものだ、なんのためにやるのだと、呆れたような角度から描かれており、映画内の演出も相まって、皮肉っぽくシニカルに戦争を描いているのではないでしょうか

映画に派手さはないし大スターも登場しませんが、<戦争に翻弄される若者たち>というテーマを、岡本喜八監督なりの表現した作品と言えそうです。

さいごに

本作のキーパーソンはやはり大谷直子演じる「うさぎ」でしょう。大谷直子はうさぎ役のオーディションでスクリーンデビューしたようで、調べてみると本作のヌードが印象に残っている!という方が多くいらっしゃるようです。

女郎屋のおかみ代理(おかみが空襲で死んでしまった)として、女学生として勉強しながら店を切り盛りしていますが、”あいつ”と雨宿りするシーンでは、服を脱ぎ一糸まとわぬ姿になります。私は大谷直子全盛期を知らない世代なのでピンとこないのですが、今で言うと広瀬すずが映画デビュー作でヌードになる、みたいなものでしょうかね…。(違う?)

古い邦画を観ていくと、若くしてゴンヌズバーっと丸裸になっている女優がたくさんいます。『青春の殺人者』を観たときに原田美枝子の体当たり演技にはびっくりしました!(こちらもATG映画です)。

最近は映画監督やプロデューサーの立場で、俳優に対して性的なシーンを強要したり、また主従関係から性的関係を要求することが問題になっています。今の時代に、映画デビューでいきなりヌード!っていうのはもうあり得ないのかもしれません。

あ、随分話がそれましたが、主人公”あいつ”役の寺田農もかなり好演していますよ。感情を表に出さない難しい役柄だったと思いますが、昔の役者さんは実力者ぞろいで映画を観ていると作品にのめりこんでしまいます。

それから、砂浜でナイチンゲール3人衆が登場して、結局兵隊たちに乱暴されるシーンは、ありゃ一体何だったんだ?!これは理解が及びませんでした…。

ドンパチやるだけが戦争映画ではないですから、本作のような見方や角度で、戦争の悲劇を考えてみるのも良いですね。

新文芸坐ポスターより①
新文芸坐ポスターより②

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