稲川淳二の怪談を整理する、怪談!稲川倉庫です。
今回は、稲川淳二with r-e-i.comによる怪談ソング『Help me!』を整理!
(CD発売日:2000年7月7日)
稲川淳二with r-e-i.com『Help me!』
MYSTERY NIGHT TOURシリーズが10枚目まで紹介できましたので、ちょっと趣向を変えて座長参加の怪作を紹介させて頂きますよ…。
誰が、なんのために、どんな狙いがあってリリースしたCDなのか、全く不明!
本作は、癖になるメロディとr-e-i.com(誰だそれ!)の合いの手がリフレインするソウル調のナンバー「Help me!」と、怪談3話を含むミニCDです。ミニCDといっても50分以上収録の大ボリューム。
さらっと重要なことを書きましたが、一応音楽CDという体裁をとっているものの、稲川怪談が3作も収録されています。
そして、稲川怪談のなかでも隠れた名作の初CD化が実現しています!(しかもこの作品にしか収録されていない!)
「マー」と「ビバーク」は必聴中の必聴!
私個人の稲川怪談ランキングでは上位に位置する「マー」と「ビバーク」。
廃盤になっている本作でしか聞けないとは惜しすぎるぞ!
とにかくどんな方法でも見かけたら入手して聞いてほしい怪談です!
※私はTSUTAYAのCD宅配レンタルサービスでこの『Help me!』をレンタルして聞きました。
他にもMYSTERY NIGHT TOURシリーズやその他の稲川怪談CDもレンタル商品にラインナップされています。無料で始められるので気になる方はチェックしてみてくださいね。
2023年10月現在、ツタヤディスカスの稲川怪談CDラインアップ
・稲川淳二の秋の夜長のこわ~いお話
・怖いから聞かないで
・怖いから聞かないで 惨
・怖いから聞かないで~極選~
・ホントにこわ~い話 ベスト
・決定盤!! 稲川淳二の怖~い話 ベスト
・Help Me!
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また、DMMのCD宅配レンタルサービスには『Help me!』はありませんが、TSUTAYAと同じように稲川怪談CDをレンタルすることができます。こちらも無料から始めることができますよ。
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・稲川淳二の怪談 MYSTERY NIGHT TOUR Selection BOXシリーズ
(ベストアルバムBOXにようなもの)
それでは、収録トラックをひとつづつ紹介していきましょう。
「Help me!」
稲川淳二初のホラーソング!らしいですが、実質的に歌っているのは女性4人組のr-e-i.com(レイコムと読むそうです)の面々。申し訳ないですが彼女たちのことはまったくわかりません…。
風の噂では「恐怖の現場」シリーズのアシスタントが参加しているとか…。詳細わかり次第報告いたします!
心音と不気味な打ち込みの電子音から始まるこの歌ですが、なんだかダンサブルで軽快なソウル調メロディで、体が動いてしまいそうな癖になる曲です。
我らが座長はというと、r-e-i.comが歌っているメロディとは全く関係なく、怪談の語り口のようなトーンで淡々と「恐ろしいこと」をとうとうとささやいていきます…。
r-e-i.com「あなたには見えますか♪」
座長「道で助けを求めている霊を…」
r-e-i.com「あなたは感じますか♪」
座長「空き家の前で例の気配を…」
という具合に、同じ歌詞を繰り返して歌うr-e-i.comに対して、様々な霊との遭遇バリエーションを朴訥と語ります。
サビではr-e-i.comが英語詞で「I don’t see, I can’t see, I want see. I don’t feel, I can’t feel, I want feel. 」と歌えば、しまいにゃ「Go to hell!」なんですよ(笑)
とにかく座長はひたすら抑揚なく語り、r-e-i.comはちょっと気だるそうな脱力気味で同じ歌詞を繰り返す…。
名曲とはちょっと違うんですけど、怪作と呼ぶにふさわしい、妙にクセになる1曲です。
公式ではないので直リンクは張りませんが、YouTubeには有志がUPした動画がありますのでチェックしてみてください!
マー
さて、稲川怪談マニアにとってはここからが本番!
マイナーながらも私の超お気に入り怪談「マー」です。
稲川怪談ではいろいろ思いを巡らせてしまうような怪談タイトルがありますよね。例えば「数学者のあとがき」とか「北海道の花嫁」とか…。いったいどんな話なんだろうと聞き手を惹きつけるタイトルがたくさんあります。
それに対して、この怪談のタイトルは「マー」ですよ(笑)稲川怪談史上もっとも短いタイトルに間違いないでしょう!最高にイカしたタイトルだと思いますね!
ほかの怪談DVDなんかでは「マー・マー」になってました。稲川怪談の中には、もっとマシなタイトルなかったんかい!と突っ込みたくなる、まったく繰ってないタイトルも多くありますが、この「マー」はその最たるものでしょう!
内容
ある一家が、父親の仕事の関係で鎌倉方面へ引っ越したんです。
一家の家族構成はというと、両親とお姉ちゃん、それから主人公の男の子と猫1匹なんですがね。その男の子が小学校2年生の時に体験したお話しなんです。
広くて大きい洋風な造りの家だったそうで、庭に出ると海が近いせいか、時折潮の香りがする。家族は大変気に入ったそうですよ。
「マー・マー」
男の子が猫を呼んでるんですね。「マー」っていうのは飼っている猫の名前なんですが、子猫のころに「マー」って鳴いたからそう名付けたそうなんですよ。
すると、どこからかかすかに「マー」って泣き声が聞こえた。どっかにいるなあと思って男の子は大きな声で「マー!」って呼んだ。すると、突然廊下から「ニャ~」とマーが現れた。
あれ?
今確か遠くで鳴いてたのになあと思ったんですが、そのころからマーはふっと消えては突然現れることがあって。どこに隠れてるのかな、今度探してやろう。そう思ってた。
また別の日。家族が眠りについたころ。男の子はふっと目が覚めた。
「マー」
遠くでマーが鳴いている。
すると、マーがすーっと部屋に入ってきた。さっきの鳴き声はマーじゃないのか…。そうすると、この家には別の猫が住み着いているのかな…。
飼い猫の鳴き声と思っていた「マー」という声、次第に別の猫の鳴き声とも違うことがわかってきて…。
一言コメント(ネタバレ注意)
猫ではない謎の鳴き声の主は、次第に母親の前に登場するようになります。
そして、マーが出入りしているらしい納戸の奥に、小さな隠し部屋が見つかるのですが、そこは異様な光景が広がっていました。
母親の前に現れる黄色い目をした顔中ウロコの赤ん坊、屋敷の隠し部屋にあったお産をしたような形跡、そして不動産屋に聞いたという、以前の家主であった姿を消した老婆…。
老婆がそこでウロコのある赤ん坊を出産したのか?
なぜ老婆が?誰の子供か?なぜうろこの顔なのか…?
なんとも不気味で脈略のない終わり方をするこの怪談…。真相はまったくわかりません。
例えるなら、楳図かずおの恐怖漫画のような不気味さがありますよね…。
演出の特徴
この「マー」は、BGM・SE・それからエフェクト類による演出が大変素晴らしいです。
座長の語りだけで押し通す怪談の魅力ももちろんあるんですが、本作は怪談を活かすアレンジがたくさんあって、良質なラジオドラマを聞いているようです。
また、作中ではマーが鳴いている声だといっていますが、「マー」という鳴き声に、明らかに赤ん坊の声が重ねられていたりと芸が細かい。
そして、主人公の母親に恐怖が近づいてくると、心臓の鼓動を示しているかのような「ドクン…ドクン…」という心音も入っていて、聞いている方も忍び寄る恐怖が感じられる仕上がりになっていますよ。
そんな怪談の不気味さを演出するようなアレンジが、最高に物語を盛り上げてくれます。
そして!
次の「ビバーク」でそれらのアレンジの最高峰、最高傑作といってもいいぐらいに、すごい仕上がりに帰結しています!
ビバーク
こちらも隠れた名作と名高い「ビバーク」。
有名なタイトルでは「コイツに決め~た」でしょうかね。
この話は少しよく考えないと難しい、ちょっと複雑な構造になっている怪談だと思いますが、その分、あ!っと理解できた時はゾッとする話に仕上がっていますね。
内容
あるカメラマンから随分前に聞いた話があったんですよ。仮に西田さんとしておきましょうかね。
これ相当昔の有名な事件なんですが、アルプスの雪山である事件があった。「ビバーク」っていうんだそうですが、ロープとザイル1本でもって寝袋を固定して、ミノムシにようにブラーンとぶら下がって宙づり状態で休むんだそうですがね。
この「ビバーク」、数日たっても反応がない。起きてこないんですよ。拡声器で呼びかけても応答がない。意思表示がないんですよね。で、悲しいことですけど亡くなってるんだろうということになった。おかしな状況ではあるんですがね。
どうやって死体を回収するかというと、人が近づいて回収できないもんですからね。狙撃手がライフルでもってザイルを撃ち落とす。それで、落ちてきた人を回収するそうですよ。ご両親の了解も得てね、いよいよ計画されたんです。
マスコミではニュース映像を取ろうってことになって、山の経験がある西田さんがカメラマンとしてクルーに参加したんです。なにせ吹雪や嵐なんかの荒天だと狙撃できませんから、カメラクルーたちは最悪の場合は山小屋で数日間待機しないといけない。
リーダー格だった西田さんは、他のスタッフに体力の温存をするように指示して、全員小屋で休んだ。
夜中。外は相変わらずの吹雪。「ゴーッ」と音を立てて嵐が吹いている。
すると、小屋の外で誰かが小屋に向かってくる足音が聞こえてきた。「ザッザッザッ…」雪を踏みしめる音が近づいてきた。
小屋を回り込んで雪を払う音が聞こえたもんですから、入れてやろうと小屋の入り口を開けたんですが、だあれも居ない。確かに足音や気配を感じたんですけどね…。
翌朝になって決行するという連絡を受けた。小屋を出たスタッフが真新しい足跡を見つけたんで、やっぱり昨夜に小屋へ来てたんじゃないかと思ってね、付近を探したんですよ。
そしたらなんと、断崖の下、スッポリはまるように死体があったんですよ。無線で救援を呼んだんですが、赤と黄色のジャケットを着たその死体は、どうやらテレビ局の関係者ではないらしいんだ。
そして、後でわかったことなんですがその死体、死後1年経っていたんだそうです。その死体は、自分を見つけてほしいから、幽霊になって彼らの小屋を訪れたのかな…。恐ろしい話なんですがね…。
その後、ビバークの青年はというと、無事に撃ち落として遺体は回収できた。西田さんたちテレビクルーもしっかり撮影ができた。
そんな話だったんですよ、その時はね。
なんですが、座長は久方ぶりに西田さんに会った際、「幽霊が訪れた小屋の話」がありましたねって話たんですけど、西田さんは、
「あの話、違うよ」「そうじゃなかったんだよ」
っていうんです…。
一言コメント(ネタバレ注意)
内容のところでほぼオチ寸前まで語ってしまいましたが、あえてここではこれ以上は触れまい。
幸い、稲川淳二公式YouTubeチャンネル「遺言」にアップされていますので、未聴の方はぜひチェックしてみてください。
オチの決めセリフについては、媒体によって「オマエ」「コイツ」「アンタ」など混在していますが、本CD版は「アンタ」バージョン。ここは好みが分かれるところでしょうね。
稲川淳二メモリアル「遺言」
長い話ですけど、絶対に聞いて損はさせませんよ!
演出の特徴
いやはや、先ほどの「マー」より「ビバーク」の方が演出が凝っています。
BGMは全体的にもの悲しく冷たいイメージで、さらに夜中の雪小屋のシーンでは無機質で真っ暗闇なイメージのBGMになり、さらにオチに向かって恐怖を盛り立ててくれるBGMがかかります。
SEも細かくて、雪山の小屋の扉を開けたときにブワっとふく冷たい風を連想させる効果音や、拡声器で呼びかけたり、無線で話す時のエフェクトもいちいち凝っています。
約14分の怪談ですが、座長の語り口と話の面白さに加えて、聞く作品としてかなりアレンジが効いていて、エンディングでは良質な映画1本みたような感覚になります。
お話だけならさっきのYouTubeチャンネルや他の映像媒体でもよいのですが、このCD版ならではのミックスをぜひ聞いてほしい!
人形
俗にいう”身代わり人形”にまつわるお話です。
何かの媒体でこのお話の音声ドラマを聞いたことがあるんですけど、一般流通で発売されたCDには収録されていないようですので、こちらも「マー」「ビバーク」同様に初CD化といってもいいんじゃないでしょうか。
内容
和歌山県のある女性が、高校生の頃に体験したお話なんですけどね。
短大に進学することが決まった、今は実家暮らしの彼女ですけど。いつもの居なれた自分の部屋なんですが、なんだか人の視線を感じることが頻繁に起こるようになった。
誰かが近づいてくる気配がしたり、擦っている足音までするようになった。気味が悪くなって母親に話したんですが、進学前だから神経が高ぶってるんじゃないか?って…。
気のせいだから、気持ちが高ぶってるせいだからって、自分にいい聞かせるんですがね。
そんな夜なんですが、寝ているとツーっとふすまが開いて、寝ている自分の方に足跡が近づいてくる…。
小さな足音、なんだかバランスが悪い…。自分の顔のあたりまでやってきた…。どうやら自分の顔をみているらしい。
枕元にあるスタンドの灯りをカチッと付けた瞬間!
白い綺麗な顔立ちの女の子の顔が目の前にあって、暗闇の方に消えていった…。
このことを両親に話したところ、消えていった押入れの方を探してみることなったんですが…。
一言コメント(ネタバレ注意)
このあと押入れの中からある箱がみつかるんですが、これをみて彼女はなんとなくすべてがわかった。すべてを理解したんです。
箱の中には人形があった。幼少のころ病気がちで医者から長生きはできないだろうっていわれていた彼女のために、当時おばあちゃんが作ってくれた”魂を入れる人形”だった。
本来は呪いの人形だそうですが、ある意味では人を生かすためにも使われたんだそうで、彼女はこの人形を兄弟のようにかわいがった。だんだん体が良くなっていって、そのおばあちゃんも亡くなったことともあり、次第に人形のことは忘れてしまっていたんですねえ。
彼女の代わりに病気やケガを引き受けるように、人形には傷や汚れや破損があったようです。きっと守ってくれてたんでしょうね。彼女のことをね。
人形はお寺に持って行って供養してもらうことになるんですが、お坊さんから「取り殺されなくてよかったね、本来は呪いの人形なんだよ」って聞かされるんです。
人形は忘れ去られているのが嫌だったのか、また彼女に会いたかったのか。それとも、彼女を殺しにやって来たのか。
感動の話ともいえるし、悲しい話にも感じますけどね。不意に彼女の前に登場した人形の心中を察すると、やっぱりゾッとする話ともいえそうですよね。
稲川淳二メモリアル「遺言」
いくつかある人形祭りのひとつとして、本作が語られていますよ。
演出の特徴
「マー」で新たな怪談の演出手法を示し、「ビバーク」でその可能性を最大限引き出しておいて、「人形」ではかなりアッサリその演出を手放しています(笑)
このお話はピアノやシンセの悲しいBGMはあるのですが、凝ったアレンジや演出は無くてかなりおとなしい仕上がりになっています。
もっとも、悲しい系統のお話なので、その程度の演出でよいのかもしれませんけどね。
Help Me! (カラオケ)
最後はHelp me!のカラオケも収録されています!
この(カラオケ)ですが、r-e-i.comの「あなたにはみえますか♪」の部分はそのまま歌が入っていますので、(カラオケ)になっている部分は座長の語りの部分だけなんです(笑)
あなたもご自宅で練習して友達に披露してみてはいかがでしょうか?
さいごに
史上初(?)の怪談ソングに超貴重な稲川怪談も収録されていて、しかもカラオケの練習までできるという贅沢な全部盛りCDでした。
怪談CD『怖いから聞かないで』シリーズから『MYSTERY NIGHT TOUR』シリーズが始まるまでの、間隙の大傑作といっても過言ではないでしょう!
いやほんとに、「マー」と「ビバーク」はとにかく”聞く怪談”としての完成度が高すぎる!
現時点では入手困難な作品ですが、なんとか手に取って聞いてみてほしい怪談です。
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