【80年代の狂気】内田裕也が芸能レポーターを演じた滝田洋二郎監督作品『コミック雑誌なんかいらない!』ノーカット版を観た!

こんにちは!アツコアツオです。

今回は、池袋の名画座・新文芸坐の企画上映「Impact! 日本映画の80年代 J Movie 80s」から、内田裕也主演・滝田洋二郎監督の『コミック雑誌なんかいらない!』を観てきましたので、紹介したいと思います!

昭和末期生まれの私にとって、内田裕也はロックンロールや「シェケナベイベー」ぐらいの印象しかなかったのですが、いろいろ知っていくうちにロックンローラーでありつつも俳優など映画にも携わっていて、さらに音楽プロモーターのような外タレ招聘もやっていたという…。

マルチすぎるスーパータレントなんだとやっとわかってきまして。

ご本人は既に亡くなられているわけですが、内田裕也の功績をもっと知りたい!と思っていた矢先、新文芸坐で主演映画が上映されると知って観てきましたよ。

内田裕也のことを「杖をついたロックおじさん」ぐらいしか認識されてない方、この映画は想像以上にロックです!

※新文芸坐のホームページはこちら↓

新文芸坐
感動はスクリーンから - 池袋駅東口徒歩3分の名画座
スポンサーリンク
スポンサーリンク

滝田洋二郎監督作品『コミック雑誌なんかいらない!』

新文芸坐展示のポスター
新文芸坐展示のポスター

突撃レポーターの行く手は殺人事件にスキャンダルの嵐!実在の芸能人や事件の容疑者を大挙出演させ、内田裕也が鋭くえぐった80年代日本の躁鬱。

TVの芸能レポーター木滑は、取材拒否や暴力にも「恐縮です」の一言で乗り切る低姿勢のハイエナ。怪物と化したワイトショーやジャーナリズムの中で、果たして彼は何を見い出すのか?

『水のないプール』『十階のモスキート』で、それまでの日本映画の常識をうち破ってきたロックスター内田裕也が、<フォーカス/フライデー>現象に象徴される過激なスキャンダリスムにヒントを得て、脚本を執筆。

自ら突撃芸能レポーターに扮し、松田聖子と神田正輝の結婚式、三浦和義氏のロス疑惑、日航機墜落などの事件を実際に取材。また豊田商事会長刺殺事件などもリアルに再現した。

ドキュメンタリーとドラマが交錯した異様な迫力を持つこととなった本作品は、国内はもとより海外の映画祭、ニューヨークでの劇場公開などでも大きなセンセーションを巻きおこした。

日活 データベースより引用
出演:内田裕也, 出演:渡辺えり子, 出演:麻生祐未, 監督:滝田洋二郎
¥1,980 (2023/06/18 21:22時点 | Amazon調べ)

ストーリーざっと紹介

本作は、内田裕也がスキャンダルをハイエナのようにしつこく付け回すワイドショーのレポーター(キナメリ)に扮して、スキャンダルや事件などを追いかけるという、過激でやりたい放題だったマスコミを皮肉った主人公を演じています。(今も酷いけど、当時はもっと酷い!)

有名人はもとより、事件の容疑者や被害者のプライバシーなんてあったもんじゃなかった時代。

この映画の直後にたけし軍団によるフライデー襲撃事件が起きていますので、そんなタイミングからもいかにマスコミがやりたい放題の勝手なマスゴミだったかよくわかっていただけると思います。

主人公・キナメリはテレビ局に雇われているものの、かなりダメダメなレポーター。

「恐縮です」といいながら取材対象に突撃していくのですが、コミュニケーション能力に難ありで、肝心の質問内容もグダグダ。これは氏の演技力によるところなのか、ダメダメレポーターというキャラクターなのかは判別がつきませんが、「一言だけお願いします!」「一言だけ!」程度の一点張りでは、みる者からすると「そんなんでレポーター務まらんやろ!」とつっこみたくなります。

また、一見「恐縮です」という決め台詞から梨本勝氏を揶揄したキャラクターか?と思いきや、冒頭のシーンでまさかの梨本勝氏登場(笑)この映画はご本人登場が多すぎてビックリしてしまうことが多いい!。

テレビ局側からはかなりおだてられて便利屋的に使われていましたが、次第に芸能レポーターを離れて、世間を騒がす事件の容疑者や暴力団抗争などちょっと危険な突撃レポートを命じられていき、いよいよキナメリの使い道がなくなると深夜番組の社会派(という名のエロ)レポートをこなしていくようになるんですが…。

終盤、報道とはなにか?レポーターの役割とは何か?を考えさせられる展開に行きつくことになります。

タイトルの由来

コミック雑誌なんかいらない!』のタイトルは、パンクバンド「頭脳警察」の同名曲『コミック雑誌なんか要らない』からの引用ですね。

そして「頭脳警察」の由来は、ロックミュージシャンのフランク・ザッパが率いたバンド「ザ・マザース・オブ・インヴェンション」の曲名からとったようで、さらに、内田裕也はフランク・ザッパの来日に一役買っていたそうで、すべてが少しづつ繋がっているのがおもしろいですね。

80年代日本のエネルギー

この映画を簡潔にいうならば、『80年代日本のテレビ史と芸能マスコミの横暴』といえそうです。

登場人物は80年代のスター揃いで超豪華ですし、扱っているネタは80年代日本の象徴的な出来事ばかり。バブルに向かう日本では金と欲望が加速していて、良いも悪いも国全体の爆発的なエネルギーを感じさせる時代ですよね。

そこに傍若無人で人権無視のマスコミたちが好き勝手に暴れまわりますが、ジャーナリズムってそうじゃないだろう!という内田裕也のロックンロールが聞こえてきそうです。

そして、映画自体も相当にハチャメチャ。タブーに踏み込む映画というか、タブーなき映画界だったというべきか。

「映画なら何をやっても許される」と映画界にパワーがあって、映画にある種の権威や箔があった時代なのかもしれませんが、とにかくやりたい放題の内容に仕上がっています。

私は1970年代~1980年代の邦画をよく観ますが、現代の価値観では到底許されないであろう題材や表現が多く、その衝撃がなんとも心地よくて古い映画ばかりを見てしまうわけです。

別に、今の映画界はひよっている!と主張したいわけではないんですが、遠慮しない表現力の中で観る者に考えさせられる余地があって、心がざわつく映画っていうのは、今の時代にはマッチしないんでしょうね。

以下はさらにネタバレとちょっとした裏話が続きますので、映画を紹介しておいていうのもおこがましいのですが、この映画は予備知識なしでご覧になった方が絶対に衝撃度が増します!

なので、どんな内容か知りたいだけ、またはどんな内容か知ったうえで観るかどうか判断したい、という方は読み進んでください。

ここまでで興味を持たれた方は、これ以上の前情報を入れずにご覧になられた方が面白いと思います!

キナメリの仕事と登場人物

さっきも少し触れましたが、この映画は実在の人物や事件にフォーカスされており、80年代日本のリアルドキュメンタリーの側面を持っています。

キナメリレポーターの仕事ごとに整理していきましょう。

芸能マスゴミのお仕事

最初のシーンでは、空港に現れた桃井かおり(桃井かおり役)に「交際相手とは順調か?」という下世話な突撃レポート。本人からは総無視される始末。

続いてのキナメリが行きつけのバーへ行くシーンでは、客として来ていた安岡力也・桑名正博(本人役)が、キナメリを通じて実際の芸能レポーターに対する文句をぶちまけます。

内田裕也本人は両氏と交流がある(内田軍団的な)わけですから、なんとも妙な構図。作り物の映画の中で、微妙なリアルエピソードが登場し、映画と現実の境目があいまいになってくる。

ロス疑惑

「ロス疑惑」の三浦和義(本人)が登場!

帰国した空港で本人にマスコミが群がるシーンに、東亜テレビのレポーターキナメリも取材しようと押し掛けます。

これ、映画の撮影じゃなくてマジの映像なんじゃないか…。

さすがにキナメリがその場にいるシーンは映画用に撮影したんだろうけど、三浦氏が帰国したリアルな映像を交えながら、ますます現実と虚構がボーダーレスな映像になっていく。

その流れで三浦氏本人が経営する飲食店にキナメリがアポなし訪問!

一方的にマイクを向けて「やったのか?やってないのか?」と質問を投げかける!すごいシーンだな…。

氏は当時事件(アメリカで起きた殺人容疑)の渦中にあり、マスコミによるプライバシー侵害も甚だしい強烈なバッシングを受けていたわけですが、内田裕也インタビューによると、氏へは正式に趣旨を説明したうえで映画出演のオファーをしたんだそう。なのでアポなしの突撃ではないようです。

ただ、怒った三浦氏がキナメリに飲み物をかけたらシーン終了と決めていたとのことですので、インタビューによるやり取りはたぶん台本なしなんでしょう(笑)

三浦氏はメチャメチャ理路整然と応対していてとても弁が立ちますので、終始キナメリは防戦一方…。氏のキャラクターも垣間見える、今となっては貴重な映像なんじゃないでしょうか。

っていうか、現在進行形の殺人容疑者がリアルなシチュエーションで映画に出演することなんてありますか!?

80年代おそろしや!

ビッグカップル

お次は石原真理子と玉置浩二(?)の自宅に突撃。石原真理子は手が出てくるだけですから本人ではないでしょう。

そして、石原真理子の次に登場するから、私が勝手に玉置浩二(?)と判断しているだけなんですが、若い女性を帯同していて、関係性を詰め寄ったキナメリは殴られてしまいます。

このあと、自宅に帰ったキナメリの留守番電話には見知らぬ視聴者からの罵詈雑言のメッセージが入っていて、キナメリは黙ってメッセージを聞くのですが…。

芸能レポーターという醜聞に群がって飯を食う職業の光と影(光なんかまったく描かれませんが)を映し出した、なかなかテンションが下がるシーンです。

抗争取材!

神戸の暴力団抗争はマジもんの突撃取材(笑)

このシーンはリアルドキュメンタリーになっていて、ほんまもんのヤクザ屋さんが登場します…。

一方、さすがのキナメリも及び腰で、一定の距離を取りながら「キャメラ撮ってる?」とカメラマンに助け舟を求める内田裕也。そりゃ怖いよ!

内田裕也インタビューによると、このシーンは本物のアポなしガチンコシーンで、殴られてもそれ以上のことはしないだろうと腹を決めて取材したようです。

映画完成後にカメラに映っているマジもんの方たちへ交渉し、出演料を受け取ってもらったとのこと。まさに仁義を通すとはこのこと(笑)

決して長いシーンではないんですが、微妙な距離感でインタビューを試みる緊迫感と、ソチラ系方々のの資料映像としては文化遺産的価値もあるんじゃないでしょうかね。

おニャン子クラブ

おニャン子クラブのテレビ番組に参加し年端もない少女たちにギクシャクインタビューを敢行するキナメリ。

マジで使えんインタビューっぷりは、もはや芝居をしているというよりリアルなシーンに感じられてきます…。「最近はあれですけども」とあまり要領を得ない質問多いです(笑)

世代間ギャップがありすぎるのかな?キナメリ!

売春の中学生

続いて歌舞伎町のホテルで殺された女子中学生の葬儀に、弔問客を装いと突撃し、あろうことか母親に直撃インタビューを敢行します!

母親が普通の女の子だったと答えられると、キナメリは「犯人は”買った”といっていますが」「娘さんは売春していたようです」と母親の心労に拍車がかかるえぐり方で質問を続けます。

挙句の果てには「興味本位で聞いているのではなくて、事件を教訓にして…」と、興味本位と視聴率目的でしかないワイドショーのレポーターが何をのたまうのか!と言いたくなる発言で、しまいには追い出されてしまいます。

ただ、キナメリ本人はマジメに取材しているように取れなくもない(笑)もしそうなのだったとしたら、それはそれでタチが悪い!

聖輝の結婚

正輝&聖子の挙式を直前に控え、キナメリは聖子ちゃんの実家に突撃・張り込み、さらには不法侵入までやってのける!

電柱に登っているところを警察に見つかり捕まってしまい、その後の正輝&聖子の結婚式では主催者から取材拒否され、徹底的になじられて追い出されてしまいます。

けっこう惨めなシーンなんですが、芸能レポーターも結局のとこと忖度の世界であって、キナメリのように法外無視の突撃系では生きていけない…という暗喩なんでしょうか。

ここでは正輝&聖子挙式に取材へ来た芸能マスコミの本物の映像が使われているのでないかな。ほんの一瞬ですが、我らが稲川淳二らしき人物が一瞬写っています(笑)

遠巻きに挙式の様子が映っていますが、本当の挙式かどうかは判別できず…。本人たちだったとしたら隠し撮りでしょうか(笑)

エロレポーターへ転身

使い道がなくなってきたキナメリは深夜番組のレポーターに飛ばされます。

打倒!山本晋也なんだそうで(笑)エロキャバレーや、紋々集会、ピンク映画体験レポートなど、芸能界のような華やかな世界からは遠ざかっていきます。

ホストクラブの体験入会では、ヨガ入信前のふっくらした片岡鶴太郎が登場。郷ひろみのモノマネで歌唱しているステージを、本物の郷ひろみが横切っていくという不思議なシーンもあります(笑)

テレクラ取材(恐らくそうであろうと想像)で出会った女性とホテルへ向かうことになり、この女性とのワンナイトラブがクライマックスへの伏線になっています…。

日航機墜落事故

懐かしいフジテレビアナウンサー、逸見アナが航空機が行方不明になっているという速報を伝えているのを目にし、キナメリは居ても立ってもいられなくなり、ヘリで現地へ向かいます。

ここではかなり虚構と現実が入り混じって描かれています。

ヘリで現地へ向かうシーンは当然事故後に撮影されたもの。墜落現場と思わしき尾根では山肌がむき出しになっていて、そこでキナメリは手を合わせて黙とうする。

次のシーンでは、険しい道なき山道をいつものキナメリルックで登っていき、頂上にたどり着いた瞬間、眼下に遭ったのはまさに当時の事故現場。

それこそ、プライバシーもなにもかも無視をした取材が横行していた当時に、週刊誌に掲載されていたであろう、生々しい遺体の写真。

キナメリは現場に焼き付けられた情景をみて、言葉を失うのでした。

Amazonでのレビューをみると、最新のDVD版では一連の日航機墜落事故に関するシーンはカットされているようですね。

新文芸坐はフィルム上映だったので当時上映されたままのノーカットバージョンで観賞できましたが、このエピソードがないと次に繋がる「ジャーナリズムとはなにか?」という物語の本質の迫りにくいんじゃないかあ。

とはいえ、事故現場の写真や映像は今のDVDには使用できないということなんでしょう。

豊田商事会長刺殺事件

同じマンションの住人のじーさんが金の先物取引を始めた聞いていて、さらに行きずりの女性から受け取った金の証券が気になったことから、純金の先物取引で急成長していた金城商事への潜入調査を始めます。

キナメリの中で何らかのジャーナリズムがはじけたのか、金城商事の取材許可を得ようとテレビ局スタッフに駆け寄りますが「視聴率にならない」と断られます。仕方なく独自に金城商事の被害者たちへの聞き込みを重ね、どうやら詐欺手法で高齢者から金を巻き上げて、実体のない金先物商品を売りつけていることを特定していく。

そんなとき、テレクラで知り合った行きずりの女性が詐欺事件を苦に自殺したことが報道されます。被害者たちが金城商事に殺到し、世間の動きを無視できない(視聴率になる)状況になった悪行に、いよいよマスコミは取材を進めていきます。

クライマックス。永野会長の自宅マンションへマスコミたちが集合します。

キナメリもそこで張り込んでいたのですが、突然現れた暴漢2人組(ビートたけしら)が会長宅を襲撃!

この金城商事のエピソードは、80年代のセンセーショナルテレビ史で今も語られる豊田商事の永田会長刺殺事件をそのままなぞっています。完全に再現ドラマになっていて、たけしがドアを叩く椅子の色まで同じという念の入れよう!

ビートたけしの狂気が恐ろしくはまっています。まだ映画俳優も監督もやる以前だそうで、氏の役者ポテンシャルの高さに驚かされます。

襲撃を見ていたキナメリが我慢できなくなって部屋に飛び込んでいきますが、暴漢に返り討ちに遭ってしまう。

キナメリは命こそ奪われなかったものの、襲撃の様子を至近距離で取材したかったのか?襲撃を止めたかったのか?なぜ飛び込んでいったのかは劇中では語られません。

その後、取材側から取材される対象になったキナメリは、

「I can’t speak fuckin’ Japanese」と映画を締めくくるのでした。

まとめ

いかがだったでしょうか?

本作は80年代日本におけるマスコミの過激さが垣間見えて、シニカルな笑いと狂気がバランスよくまぜこぜになっているモキュメンタリー風映画に仕上がっていました!

現実に起こった豊田商事会長の襲撃事件は、その場に居合わせたマスコミの誰も襲撃を止めず野次馬根性に終始したわけですが、マスコミやワイドショーによる、いわゆる劇場型報道のピークかもしれませんね。

作品の主軸は人権を無視するマスコミ批判でわかりやすいないようでしたが、いくつか謎のシークエンスがあって。少し難解な表現もだったかな。

キナメリが行動をおこすたびに、定期的に野球場(後楽園球場か?)でキナメリがピッチングをするシーンが挿入されるのですが、これはストーリー上で起こった出来事ではなくてキナメリの心象なんでしょうね。

で、そこに登場する謎の女性(麻生祐未)はもしかしたら実在する人物じゃないんじゃないか。

キナメリの頭の中にだけ存在する”憧れの女性”…

いやいや、終盤に彼らのデート写真が週刊誌にすっぱ抜替えれてたから…と、何が映画中の現実で起こったことなのかますます混乱させられますが、私は最近、あなたが感じたことが正解っていう映画の観方に努めています(笑)

そして、繰り返しになりますが、日航機墜落事故のシーンの有無でずいぶん印象が変わりますので、機会があればぜひノーカット版を観てほしいです!

きっとまた新文芸坐でも上映の機会があると思いますので、チェックしてくださいね。

↓おそらく日航機墜落事故シーンはカットされているバージョンと思いますのでお気を付けください。

出演:内田裕也, 出演:渡辺えり子, 出演:麻生祐未, 監督:滝田洋二郎
¥1,980 (2023/06/22 22:24時点 | Amazon調べ)

コメント

タイトルとURLをコピーしました