こんにちは!アツコアツオです。
今回はプロレス界で「呪われた一家」の悲劇として有名なフリッツ家を描いたノンフィクション映画『アイアンクロー』を観てきましたので、紹介したいと思います!
アイアンクロー
プロレスマニアは絶対観ろ!
プロレスファンは絶対観るべき!
プロレスを知らない人は、プロレスの見方が絶対変わる!
「呪い」の正体に迫り、そして「プロレス」に巻き込まれた家族の悲哀を描く、80年代プロレスの完全再現映画です!
※ネタバレをたくさん含みますのでご注意を。
オススメポイント
プロレス界の実話を題材にした本映画ですが、オススメポイントを3つにまとめると…
①「呪い」の正体
②兄弟の運命
③80年代アメプロの完全再現
それでは1つずつ紹介していきましょう。
①呪いの正体
プロレス的なアングルでは決してない不幸に見舞われた実話から、「呪われたエリック一家」などと呼ばれていますが、呪いなんてアーバニズムはありはしないわけで。
この映画を通して感じたことですが、「呪い」とはNWAヘビー級チャンピオンに取り憑かれたフリッツ家自らがかけてしまった呪い、と表現するのが正しいのではないでしょうか。
かつて新日本プロレスの棚橋弘至は、唐突にアントニオ猪木へ挑戦表明した中邑真輔に対して、「ストロングスタイルの呪い」と語ったことがありました。
同様に、ありもしないものによる重圧に取り憑かれてしまった悲劇と言い換えることができそうです。
ざっくりあらすじ紹介
本映画は、鉄の爪の異名を持つレジェンドプロレスラーであるフリッツ・フォン・エリックの家族が主役。とりわけ次男のケビン目線で物語は進行します。
フリッツは日本プロレスにも来日経験がある1960年代に活躍したレスラーですが、プロモーターとしてWCCWなるテキサスのNWA加盟団体を運営していました。プロレスラーでありながらも団体を率いるオーナーでもあり、興行主だったわけです。
フリッツはAWA世界ヘビー級王者になったことはありましたが、当時世界最高峰だったNWA世界ヘビー級王者は獲得できておらず、レスラーとしての悲願、そして興行主として自身の団体からNWA世界ヘビー級王者を輩出するという野心を抱いていました。
当時の全米マット界は、地方の中小団体がNWAに加盟し、時のNWA世界ヘビー級チャンピオンが各地へサーキットしながら防衛線を行うという仕組み。当時NWA世界ヘビー級王者は日本プロレスや全日本プロレスにも来日し防衛線を行い、きっちり防衛して帰国するというのがお馴染みの光景になっていました。
フリッツは一家の次男(ケビン)をプロレスラーに育て上げ、WCCWが管理するNWAテキサスヘビー級王者に就きますが、サーキットで巡業してきたハーリー・レイスに挑戦させるもあえなく敗北。次第に弁が立つ三男(デビット)がデビュー。
そして、モスクワオリンピックによりオリンピック出場の夢が絶たれた円盤投げの選手だった四男(ケリー)がプロレス入りし、いよいよ陣営が整ってきました。
いよいよ巡ってきた王者リック・フレアーへの挑戦権を獲得したのは、最もキャリアの長い次男ケビンではなく三男のデビットでしたが、挑戦前の日本巡業中に内臓疾患で帰らぬ人になってしまいます。
元をただせば長男ジャックJr.は幼少期に不慮の事故死を遂げており、ここから「呪い」はますます加速していくのです…。
次男デビットが持っていた挑戦権に対して、フリッツはケビンかケリーのどちらが挑戦するかコイントスで決めることを提案。結果、四男ケリーがリック・フレアーへ挑戦することになり、三男デビットの追悼興行で見事フリッツ家悲願のNWA世界ヘビー級王者を輩出することになりました。
しかし、ケリーはバイク事故で足首を失ってしまい、痛みから逃れるために薬物を服用し、後年ピストルで自殺してしまう。
さらにプロレスに関心を示さなかった五男マイクも一族を背負ってプロレスラーになりますが、試合中のアクシデントの影響で後遺症を負ってしまい、ついには薬の過剰摂取により服薬自殺…。
(加えて、映画では描かれていませんが、六男クリスもプロレスデビューしのちにピストル自殺を遂げています)
数々の「呪い」によって、一人ぼっちになってしまった次男ケビンは、ついにはプロレスを廃業してしまうのでした。
呪いにはNWAが関わっている
この一連の死は、父フリッツがNWAに取り憑かれたがゆえに起きてしまった悲劇でしょう。
だけど、この映画からは息子たちを自分の駒や道具のように扱うような歪んだ父性感という印象は受けませんでした。
起きた出来事の側面だけみると「とんでもない父親だ!」という見方になってしまうかもしれませんが、父フリッツの事実関係はさておき、映画本編からはそう感じませんでしたね。
父フリッツは妻や息子たちを愛していたし、それぞれの立場はあれど、息子たちも父を愛し、そして家族を愛していたようでした。(最終盤に次男ケビンが父フリッツにブチ切れるシーンはありますが)
それよりも、プロレスビジネスの特殊性(NWA制度、興行論、チャンピオン像、肉体を酷使した格闘芸術)と、ショーマストゴーオンの宿命の儚さ、といった方が合っているような気がします。
痛み止めやテーピングのシーンもあり、華やかな世界の裏側にあるダークサイド・オブ・ザ・リングといえばいいかもしれません。
家族が亡くなっても観客は待っているし、観客を入れるためにはNWA世界ヘビー級王者にならなければならない。そうしないとプロモーターとして家族やレスラーたちを養っていけない…。
やっぱり、どうみたって「最低な父親によって人生を狂わされた息子たち」という本質ではないですよ。
その当時の状況を理解し、そして思いを馳せることができるプロレス者だけがそっと寄り添える。プロレスマニア度が高ければ高いほど、本作は絶対に見てほしいと思います。
「誰がわかるんだ!」と突っ込まれると想像しますが、どことなくスーパーファイヤープロレスリングスペシャルのチャンピオンロードを思い起こさせましたね。嗚呼、SUD51!
劇中でのプロレスの描き方
そうそう、「プロレス」の描き方については、いわゆるケーフェイには極力触れない表現のように感じました。
一部、試合前の対戦相手打ち合わせのようなシーンがありましたが、『レスリング・ウィズ・シャドウズ』や『ビヨンド・ザ・マット』のような、エンターテインメントの内幕を描くようなシーンは皆無でした。
プロレスをあたかもリアルファイトで勝敗が決しているようなセリフが多く(例えば、父フリッツの息子に対する「絶対に勝て!」という激励など)、もしかすると日本人のプロレス観に合わせた字幕翻訳だったのかもしれません。
②兄弟の運命
あらすじでも触れましたが、本作で描かれる次男~五男のプロレスラーたちの運命も見どころです。
あくまで映画を通してみた兄弟の運命を振り返りましょう。
次男ケビンの場合
フリッツ家でもっと早くデビューしNWAテキサスヘビー級王者になったケビンですが、試合前煽りインタビューやマイクアピールが苦手。リング上では非凡な才能をみせるものの、平穏で感情の起伏が少なく、やや精神的に幼くて家族想いなケビンは、異常なプロレス界では大成しなかったようです。
終盤、WCCWに立ち寄った王者リック・フレアーへ挑戦し敗退しますが、試合後のロッカールームでフレアーから称賛され飲みに誘われるシーンがあって。
私はこの出来事が、ケビンが「呪い」から逃れられた要因ではないか、と感じました。
直前のTVインタビューで圧巻のパフォーマンスを魅せるリック・フレアー。
どうみても役者が違うレスラーですが、そんなNWA世界ヘビー級王者から認められたことで、父親の運命を背負ってやっていたお仕事のプロレスを脱して、ある種の自我のようなものが目覚めたのではないでしょうか。
そのことが、結果的にケビンがNWAの呪縛から逃れるきっかけになったのではないでしょうかね。
三男デビットの場合
来日中に亡くなってしまったことから、日本のオールドファンは兄弟の中でもっとも印象深いと選手という方も多いデビット。
自己主張が強く、台本があるらしき煽りインタビューや完全アドリブのマイクアピールもうまくこなしていて、父フリッツが最も期待したレスラーのようですね。
身長も高くややトンパチ風な描写もあって一番プロレスラー向きだったのかもしれません。
四男ケリーの場合
オリンピック出場の夢を絶たれたことをきっかけにプロレスデビューとなったケリー。
そして、兄の死を受けてNWA世界ヘビー級王者にたどり着きますが、最も運命に翻弄されたレスラーといえるかもしれません。
作品上では、もともと神経質で精神的に少し脆そうな様子が描かれていますが、バイク事故をきっかけに薬物中毒になってしまい、最後は次男ケビンに電話で助けを求めながら、生まれ育った実家でピストル自殺を図ってしまう。
プロレスラーという役を演じながらも、精神的な危うさを抱えていたケリーは、表裏がうまく合体すれば真のカリスマになり得たんじゃないかな…と感じてしまいました。
劇中、ずーっとケニー・オメガに見えてしまって仕方ありませんでした(笑)似てると思いませんか?
五男マイクの場合
マイクの死はもっとも悲劇的でしょう。
元々音楽を愛しプロレスから最も遠い位置にいたマイクは、兄の死をきっかけにますますプロレスラーになることを運命づけられてしまう。
音楽を愛する優しい男だった彼は、一族の宿命を背負ってデビューしリング禍をきっかけに自殺してしまいました。
事実関係はわかりませんが、劇中では最もプロレスセンスがないように描かれていたような気がします。要するに「向いていないのにプロレスラーにさせられてしまった」のではないか。
兄の不幸さえなければ、本来は失うことがなかった命だったのに…と思ってしまいました。
③80年代アメプロの完全再現
「フリッツ一家の呪い」を読み解く家族愛を描いた本作ですが、プロレスシーンやプロレスラーの再現度の高さも魅力のうちでしょう!
俳優が演じるフリッツ家の息子たちの肉体はかなり仕上がっている(棚橋選手に言わせれば「ケビンは仕上がりすぎている」)し、クラシカルな展開が続く試合シーンの迫力は素晴らしいです。
会場・リングそしてテレビ映像の演出なども再現度が高くて、ノスタルジックな映像づくりは80年代アメプロの完全再現といっても過言ではない!
そしてレスラーのものまね(といえばちょっと失礼ですが)もとても似ていて、オールドファンならニヤリとするシーンの連続でしょう。
劇中ではラスボス風に最高の王者リック・フレアーが登場しますが、ほかにもハーリー・レイスやブルーザーブロディなど、日本人にもなじみ深い選手がたくさん登場しています。
特にリック・フレアーは圧巻のテレビインタビューを演じていて、本家よりも迫力があるぐらい。
憎たらしいNWA世界ヘビー級王者をうまく演じられていると思いますよ!
また、アメリカマット界の勢力争いが大きく変動するのもこの頃で、ニューヨークを拠点にしたWWF(現WWE)がテリトリー制を否定し全米に侵攻、地方のプロモーターたちが飲み込まれていく様も本作では描かれています。
のちにNWAの加盟団体がWCWを興し、全米TV戦争に突入していくのです…。
まとめ
繰り返しになりますが、プロレスマニア・プロレスファンには絶対にオススメしたい映画なのは間違いありません。
ジャンル的にあまり長く劇場公開される作品ではないと推察しますので、早くスケジュールを押さえた方がよいでしょう。
あなた自身の目で、「フリッツ家の呪い」の正体を探ってみてほしいと思います!
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