こんにちは。野良プロレスコラムニストのアツコアツオです。
金曜日は闘いのワンダーランド!
毎週金曜日にお届けする『NJPW今日は何の日』のコーナーです。
新日本プロレスワールドのアーカイブにある過去の試合から、アツコアツオが独断と偏見で選んだ1試合を紹介します!
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8月4日は何の日?
今回は、1983年8月4日に蔵前国技館で行われたこの試合をテーマに考えてみることにしましょう!
デビュー後から7年もの間、鳴かず飛ばずだったレスリングエリートの長州力が、かの有名な「噛ませ犬」発電で藤波辰巳に下剋上を叩きつけた、いわゆる名勝負数え唄の1戦です。
実はこの日、タイガーマスクのラストマッチ(この後突然引退を表明することになった)である寺西勇戦も行われていますが、寺西戦は前回記事を書いてしまいましたので、今回は名勝負数え唄をチョイス。
う~ん、タイガーVS寺西は8月4日分で語るべきだったかもしれませんね(笑)
とはいえ、1983年8月4日の長州VS藤波は年間最高試合賞に輝いた、名勝負数え唄の中でも人気が高い一戦です。
革命戦士
「名勝負数え唄」の試合を振り返る前に、やはり長州力の大ブレイクを語らなければならないでしょう。
2023年では長州力はタレント/YouTuber化していますが、ハッシュドタグや「飛ぶぞ」などのキラーワードで茶の間ブレイクした話をしたいのではありません(当然)。
長州はアマレスでミュンヘンオリンピックに出場した経歴を持ち、鳴り物入りで新日本プロレスに入団。吉田光雄の本名でデビューしましたが、1974年のデビュー戦からから1982年の「嚙ませ犬」発言まで、実に7年間低空飛行が続きました。坂口と北米タッグを奪取するなど、それなりにプッシュされていたはずですが、人気や集客力があるレスラーまでには発展せず、中堅レスラーに甘んじていたわけです。
新日本プロレスとしては、レスリングエリートが入団することで猪木・坂口に次ぐ第三の男になるよう期待したはずですが、思ったようなブレイクに繋がらない。一方、格闘技のバックボーンなど何も持たない藤波が、ジュニアヘビー級でスーパースターにのし上がっていきました。
興行視点でみると見世物ともいえる特殊な『プロレス』という職業に、アマチュアレスリングで実績のあった長州が馴染むのに時間がかかったのかもしれませんし、長州自身にそうした柔軟性が乏しく、実直過ぎた側面があるかもしれませんね。
ブレイクを阻んだ要因
元週刊プロレス編集長・ターザン山本にいわせると、外国人対決が主流だった当時のプロレス界において、長州は外国人選手と比較すると身長がなく手足が短い、と。
また、必殺技であるサソリ固めはどちらかというと地味な技で、格下相手に使う技であるとも指摘しています。スター外国人選手に仕掛けても見栄えがしないし、長州は外国人選手から評価されていなかったようです。
試合がしょっぱい、それもあったかもしれない。ですが、当時の新日本プロレスにおいては、長州の持ち味が活かされる時代や場、また対戦相手ではなく、長州がブレイクできない要因はいくつもあったと分析しています。
そして、メキシコ遠征から帰国した長州は、日本人対外国人というプロレスの王道を大きく転換させる「嚙ませ犬」発言でスーパースター藤波に反逆。
華やかな外国人対決から、嫉妬や情念がはびこる日本人対決を新日本プロレスの日常にもたらすのでした。
噛ませ犬発言
メキシコ遠征からの帰国第一戦。1982年10月8日後楽園ホール。
メインイベントの6人タッグマッチに猪木・藤波・長州組で出場しました。
一番先にコールされる(格下の順番でコールされるのが通例)自分の名を聞いて「ん?また俺が一番先に呼ばれるのか?」と明らかに不服そうな長州。そして、それをみて藤波は怪訝な表情で何かの異変を察知します。
ゴングが鳴ると、長州は「俺は出ないぞ」とばかりにエプロンへいくも、既に猪木も藤波もさっと自軍のエプロンで待機してました。先発は格下という不文律に従って、長州は「また格下扱いしやがって」と藤波に突っかかります。
「俺はレスリングエリートだ、メキシコではベルトも取った。なんでいつまでもお前の格下扱いを受けなければならないんだ?」
そんな意図で藤波に食って掛かったであろう長州ですが、藤波はお返しとばかりに長州からのタッチを拒み、ついには試合中にも関わらず平打ちの応酬に発展します。
試合は藤波が対戦相手のSDジョーンズからピンフォール勝ちを奪うも、試合後に長州が藤波にケンカを売り、「俺はお前の噛ませ犬じゃない」と反旗を翻したのです。
裏切りのアングル
プロレス的にみれば、これは”誰かが絵をかいた”と想像するのが妥当でしょう。
ただ、誰かが台本を書いた、とはいう表現は正しくないでしょうね。プロレスは演劇ではありませんし、そんな細かなシナリオまでは決まっていないはず(特に猪木政権下の新日は特に)。あくまで流れを作った誰かがいるということ。
猪木舌出し失神事件のように、当事者(つまり長州)たった1人の仕業(ということはガチンコ発言による裏切り)なのか。はたまた誰かの指示によるものなのか。その場合は誰が知っていたのか…。
田崎健太著『真説・長州力』がそのあたりに詳しいので引用しましょう。カギカッコ内は長州の発言です。
ーあの試合では仲間割れをするように仕組んだ人間がいたとする本や雑誌が出ています。そういう理解でいいですか?
「仕組んだというのは…アントニオ猪木でしょうね。うん、仕組んだとしたら。メキシコから帰ってきて、なんか言われて、ああそうだよなっていうのがありますよね。」
(中略)
「布石を打つようなことを言うんです、うん」
(中略)
ー猪木さんが撃鉄を上げて、引き金を引ける状態にした。
「上げたんでしょうね。引いたのは俺。上げたのは俺じゃない。だから怖いんですよ、あの人」
田崎健太著『真説・長州力』文庫本P193から引用
さらに詳しい描写や記述がありますので、気になる方はぜひ本書を手に取ってみてください。
猪木がけしかけた
すごく簡単にまとめると、猪木がメキシコ帰りの長州に対して「メキシコから帰ってきて、元の鞘に戻って、また藤波の2番手に甘んじるのか?」と焚きつけたということ。
具体的な指示ではなかった、としながらも「布石を打たれた」といっていますので、「藤波にケンカを売って試合を壊せ」と命じられたのかもしれませんし、もっとやんわりと「お前の怒りをぶつけてみろ」などと、長州の導火線に火をつけるような”さとし”だったのかもしれません。
猪木はストロング小林戦や大木金太郎戦ですでに大物日本人対決を繰り広げており、燻っている長州はジェラシーという感情をむき出しにできる日本人対決の方が輝くのではないか?と、自身の経験から思案した。そして、藤波にぶつけることで、長州の反骨精神が爆発することを予期していたのではないでしょうか。
また、当事者の1人である藤波は裏切られたことについて、「僕は知らない」とはっきり答えていますので、猪木に指示による長州だけが知りえた行動だったとみるのが正解でしょう。リング上の様子から、ピーターも新間氏も事前には知らなかったようにみえます。第一、猪木がその手のアングルを仕掛ける際に、事前に周知することなんか絶対ないでしょう(笑)
それにしても、藤波は異変を察してこの裏切りを「プロレス」的に受け入れるまでものすごく早い!大方「猪木さんにけしかけられたな」と瞬時に状況や流れを理解したのかもしれませんね。
藤波もポジション確保に奔走していた
反逆の狼煙を上げた長州ですが、実は当時藤波も自身のポジション確保に苦心していたと語っています。
ジュニアヘビー級で一時代を築きヘビー級に転向したものの、やはり外国人選手との対決ではサイズ的に見劣りしてしまう。ジュニアヘビー級では後輩のタイガーマスクや小林邦明が激しくやりあっていて、今更ジュニアヘビー級には戻れない。WWFインターのベルトを保持していたものの、ベルトを失うと居場所がなくなるんじゃないかという不安を感じていた。
あまり表には出ませんが、当時の藤波も変革の流れにおいて危機感を頂いており、長州が噛みつくことで日本人対決に舵を切った新日本プロレスの戦略は、藤波にとっても渡りに船だったのかもしれません。
まさに革命を起こそうとした長州と、ポジション確保に必死だった藤波。シチュエーションが異なる両選手の状況が、この名勝負数え唄をよりリアリティある戦いに昇華したことはいうまでもないでしょう。
本当に発言したのか?
さて、この噛ませ犬発言ですが、果たして長州は本当に発言したのでしょうか。
当該の試合も新日本プロレスワールドに存在しますが、動画内では長州がそんな発言をしているシーンはありませんでした。どうやら試合後のマイクアピールでそれらしい主張をしたようですが、残念ながら動画は確認できず。
先の田崎氏の著書によると、初めて誌面上で噛ませ犬という言葉が登場するのは、月刊誌「ビッグレスラー」82年12月号とのこと。
ここで、長州がインタビュー上で「ここで自分を主張できなかったら、ぼくは一生”かませ犬”のままで終わってしまうんですよ」と答えている、といいます。
また、長州は高田延彦とのトークイベントでは「あれはマスコミが作ったものです」と答えながらも、「あ、やっぱり言ったかもわかんない」とも振り返っています。
あまり誰しもが知る単語ではなかったでしょうし、誰かの入れ知恵でもないようですので、本当に長州が発言した言葉として受け取るのが自然でしょう。
噛ませ犬の意味するところ
噛ませ犬。
本来は、闘犬において調教する犬に噛ませて自信を付けさせるためにあてがわれる弱い犬のこと。プロレス的にいうと、引き立て役・やられ役・負け役・ジョバー。傷をつけられないスター選手の代わりに寝る選手を指す言葉。
「俺は藤波の引き立て役にはもうならないぞ。いつまでも寝る役はごめんだ。スターの影で仕事をこなす雑草にはならんぞ!」という、一世一代の主張が大変革をもたらしていく。
この後、維新軍団を結成して新日本本隊に対峙していくわけですが、ここで自信を得た長州がさらなる日本人選手を求めて、近い未来に全日本プロレスへ移籍することは必然だったのかもしれませんね。
長州の嚙ませ犬発言をやさしく理解するには、有田哲平のプロレス噺【お前有田だろ!!】が最適です!
名勝負数え唄
そうして始まった藤波と長州の抗争ですが、古舘伊知郎が「名勝負数え唄」と名付けたことから新日本プロレスの黄金カードに成長していきました。
藤波の長州のシングルマッチといえば前後にもっとたくさんの試合があるかもしれませんが、先の「嚙ませ犬」事件から長州がジャパンプロレスへ離脱するまでの全12試合とするのが妥当でしょう。
今回はその中の第6戦を振り返っていきましょう。
(前置き、長っ!)
試合背景
虎の子のベルトであった藤波のWWFインターヘビー王座ですが、名勝負数え唄はこのベルトを賭けた抗争といっても差し支えないでしょう。
4月に長州から奪われたベルトを取り戻す選手権試合というシチュエーション。流れの中では長州優位な状況で、藤波が一矢報いることができるか?という、既に「嚙ませ犬」事件以前とはまったく立場が異なっていました。まさに形勢逆転。ベルトを持つ長州上位で組まれた一戦になりました。
前田日明は近年自身のYouTubeチャンネルで、プロレスとは【勝敗を度外視した主導権の奪い合い】と評しています。
私なりにその言葉を理解しようとすると、結末が決まっている試合において、対戦している選手同士にしかわかりえない勝負論があり、またそのリング上の出来事で観客を魅了し納得させることができるか。即ち観客との戦いでもある、ということでしょう。
主導権の奪い合いに勝ったとしても、観客がついてこなければ意味を成しませんし、また観客が湧くような試合をしてもリング上に勝負論がなければ、それはプロレスリングとはいえずお遊戯なんだ、ということかもしれません。
そんな意味でいうと、今回の試合はまさに【勝敗を度外視した主導権の奪い合い】といえるでしょう!
試合内容
超満員の蔵前国技館。長州のセコンドにはアニマル浜口。一方の藤波陣営のセコンドには前田と永源が付きました。
試合開始前から割れんばかりの「ドラゴン」「長州」コール、まさに五分と五分の声援でゴング。
試合はロックアップから始まり、ロープワークを駆使したぶつかり合いや体を密着させての技の仕掛け合いが続きます。一方で、ロケットスタートのように一瞬にしてスピーディーな展開になったり、またグラウンドの攻防で我慢する展開が続いたりと、まさに「主導権の奪い合い」を体現する両選手。
長州が首四の字を決めれば藤波は腕ひしぎを狙っていくし、また逆に長州が藤波の腕を取って腕ひしぎを敢行。さらには体を回転させてのコブラツイストの応酬から、藤波は”掟破り”の逆サソリ固めを狙います。(この藤波による”掟破り”は第5戦から始まっています)
中盤、長州が完璧なサソリ固めを決めますが藤波は命からがらロープブレイク。お返しとばかりに今度はリング中央で藤波の逆サソリがガッチリ決まります。たまらずロープに逃げた長州へ今度は藤波の得意技である足四の字固めを敢行。一見地味な攻防ですがかなり見ごたえがあります。両選手のほとばしる汗の関節技地獄のなかで、いつ試合が終わってもおかしくない雰囲気が醸成されていく。
さらにロープへ逃げた長州はそのまま場外へエスケープ。追いかけた藤波でしたが後頭部にリキラリアットを喰らいコーナーポストに激突してしまいます。(ここで藤波が謎の流血)
エプロンでの攻防では、長州が藤波をブレーンバスターに捕らえリング内に引きずり込むと、正調のリキラリアットを狙いますが、レフェリーのミスター高橋へまさかの誤爆。長州はもう1度藤波をロープに振りリキラリアットを狙うも、藤波は体をかがめて上手くかわし、”掟破り”のリキラリアット一閃!
厚みある長州の体が吹っ飛ぶ完璧な一撃でしたがカウント2。
長州は藤波の背後に回り、ぶっこ抜きバックドロップ→サソリ固め…。どうみてもギブアップするしかないぐらい完璧で強烈に決まりますが、藤波は腕を立ててロープブレイク!
さらに、突進してくる長州をショルダースルーで場外へ放り投げた藤波。試合は場外戦へ持ち込まれますが、場外カウントが数えられる状況の中、藤波が延髄斬りとバックドロップを見舞いリングへ復帰し、ついに長州はリングに戻ることはできませんでした。
リングアウト勝ちという結果でしたが、見事、WWFインターヘビーのベルトを取り戻すことに成功しました。
さいごに
この試合、とにかくリアリティにあふれていて素晴らしい!
リングアウト勝ちと聞くと、「え~」と残念な結末と思われがちですが、本当に藤波がリングアウト勝ちしたようにしかみえません!(いや、そうなんですけどね、マジにみえるという意味で)
懐古主義ともいわれようとも、ファンも選手もこの試合をみて学ぶところはたくさんあると思いますよ。決して大技に頼らず、最低限のプロレスの掟を守りつつも、相手を潰す/相手を越えていくような戦いをすれば、試合も観客も熱を帯びてくるしヒートアップしてくるもの。
未視聴の方はぜひ機会を見つけてみてほしい試合です。
今後も名勝負数え唄の試合は積極的に語っていきますので、また遊びに来てくださいね!
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