【猪木秘話多数収録】力道山夫人への見方がきっと変わる!プロレスからみる昭和裏面史も面白い『力道山未亡人』細田昌志

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こんにちは!アツコアツオです。

今回は日本プロレス史の開祖ともいうべき、昭和のプロレスラー力道山の妻だった田中敬子さんにフォーカスしたノンフィクション本、『力道山未亡人』を紹介したいと思います!

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『力道山未亡人』細田昌志 著

第30回小学館ノンフィクション大賞」受賞作、「発売即大重版」との文字が躍る帯をみて、プロレスファンの私は手に取らざるを得なかった!

©集英社/細田昌志

プロレス関連本は頻繁に読む私ですが、プロレスマスコミが書いたそれらとは違ってとても重厚な文体。決して難しい内容ではないけれど、読者に想像させるような表現も多く、それなりの読書力はいるかもしれません。

また、時系列に沿って自伝的に語られる内容ではないため、かなり見ごたえのある構造になっています。夫人の数奇な人生をまとめた内容もさることながら、「良いものを読んだ!」と心地よい読後感に包まれました…

若輩者ではありますが、プロレスマニアの観点から本書を振り返えりつつ、オススメポイントをまとめていきましょう!

著:細田昌志
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オススメポイント

本書は昭和のスーパースター力道山夫人になるもわずか半年で未亡人になってしまい、力道山の遺産(負債や相続税も含めて)を背負うことになってしまった田中敬子さんの半生を中心に物語が進んでいきます。

女の一生ドキュメントともいえますが、それだけではなく読者によっては複数の視点で楽しめる一冊になっています。

本書のオススメポイントをまとめると…

①夫人を通して見る昭和プロレス秘話
②プロレスに翻弄された女の物語
③裏社会系のスーパースターも総登場!昭和裏面史

プロレスマニアが読んでも、きっと知らない新情報が出てくるはず。たとえ知っている話でも、夫人のフィルターを通して語られることでまた違った印象を受けると思います。

それから、戦後まもなくの時代に、たった半年の結婚生活だったにもかかわらず、女手一つで亡夫の意志を継いでいった「逞しい女性の生き様」という見方もできるでしょう。

また、戦後混乱の中で、GHQ・自民党・ヤクザ・芸能・そしてプロレスなど、それぞれの業界における複雑な思惑が絡み合い、そこから実力者がのし上がってくる様は、学校では習わない近代史としてとても面白い

現代の日本社会の成り立ちを考えたときに、戦後教育や戦後文化の流れによるところが大きいことは押さえておきたいところですが、力道山がそうした戦後復興と真の意味でどう関わっていたのかも大変興味深かったですね。

それでは、それぞれのポイントに沿って掘り下げていきましょう!

夫人を通して見る昭和プロレス秘話

猪木力士化計画?

本書ではアントニオ猪木との邂逅もたくさん語られています。

「力道山は猪木こそ特別扱いしていた」ことを裏付けるエピソードが多く、終盤語られる平壌興行なども通して、やはり力道山の後継者は猪木だ!と納得させられました。

猪木のことを「アゴ」と呼びシゴキにシゴキまくっていたことは知られた話ですが、それでも肩を揉ませたりしながらサイドビジネスの商談に同席させていたようですし、どうやら背中で語るオヤジだったようですね。猪木のセカンドビジネスはきっと力道山の影響なんでしょう…。

一方で、馬場に関しては金の成る木というか商品のように扱っていたといいます。元巨人軍の投手でアメリカマットでも成功を収めた馬場に対して、猪木には箔になるものがありませんでしたが…。

猪木が「力道山から褒められた」というエピソードで、元横綱・前田山の高砂親方から猪木を指して「こいつ、いい顔してるねえ」と言われた力道山が「そうだろう」と語ったといいますけど、この話はまだ続きがあって…。

なんと猪木力士化が計画されていて、三役まで経験させてプロレス復帰し逆輸入させるというアイディアがあったといいますから驚き。

馬場&猪木時代を見据えてのことだったんでしょうか。そしてそうなれば天龍源一郎と同期になるはずだったそうですよ。

力道山、死の真相

手術後にサイダーを飲んだ」ことが定説になっているような気がする死の真相。敬子さんははっきりと「サイダーは飲んでいない」とおっしゃっています。

そればかりか、死後30年後に当時研修医だったという人物から突然の電話がかかってきて、「医療事故だった」と匿名の告白があったといいます…。

知られた話かどうかはわかりませんが、本書初出しなのであれば歴史が変わる一説ではないでしょうか?

猪木への破門状

わたしにとって敬子夫人の印象というと、「馬場に付き猪木の邪魔をするヤな人」(失礼)という印象でした。もっとも強烈だったのは、力道山十三回忌興行に端を発した【猪木への破門状】事件です。

力道山十三回忌の追善興行を開催する運びになり、ゆかりの団体や選手に集合を呼び掛けたものの、猪木は同日に蔵前でのロビンソン戦を控えていたため出場が叶わず、百田家から力道山一門から破門された、というもの。

結果的に日本武道館の「追善興行」と蔵前国技館の「新日本プロレス」が同日の興行戦争になってしまったわけですが、この事件についてかなり切り込んで事実関係を調査しています。

そして、衝撃だったのは「破門状を書いたのは敬子さんではない」ということ。ご本人曰く「東スポの人じゃないですか」。(もちろん、何が真実かはわかりません)

力道山未亡人として担がれ、一応日本プロレスを吸収した形になった全日本プロレス及び日本テレビに利用されたんだろうなあと認識が改まりました。

同日興行開催2日前に和解式を組むあたり、東スポは馬場と猪木を対立させせてでも「新聞が売れりゃあいい」ということだったんでしょうか。

繰り返しになりますが、このエピソードはかなり分析されていて核心をついていると感じましたね。

VSタッキーの謎

時代は進み、力道山三十回忌法要の際に降って湧いた「メモリアル力道山」興行。

私にとってはかなり謎の興行で、主催意図や経緯、そしてなぜタッキー(滝沢秀明)がマットに上がったのかなど釈然としないことがあったのですが…。

第1回(参加団体1試合ずつの提供試合が中心)が満員にならなかったことから、第2回は満員を目指して立ち上がり、なんと猪木をリング復帰させる計画が浮上します。敬子さんが「十三回忌追善興行」の借りを主張し、猪木の口説き落とし、エキシビジョンマッチの参加が決定。

そんなころ、力道山の旧知の仲だったメリー喜多川から協力の申し出があり、タッキーが国歌斉唱を担うことになったんだそうです。で、記者会見の席でタッキーが「僕も試合に出られないかなあ」とつぶやいたことから、猪木VSタッキーが実現することになったとのこと。

芸能界に帝国を築いたジャニーズからの恩返しで、猪木VSタッキーのエキシビジョンマッチが実現したんだそうです。

いろいろあったジャニーズですが、こうした過去の縁や義理を大切にする会社だったのかもしれませんね。(だってタッキーがメモリアル力道山に絡んでもジャニーズは何もメリットないでしょ)

プロレスに翻弄された女

敬子さん幼少期から半生を追っていく本書ですが、敬子さんは数奇な星のもとに生まれた方なんだなあ…というのが率直な印象。

父親が警察の茅ヶ崎署長だったというからわりと裕福な家庭だったんでしょうけど、「健康優良児」として神奈川代表に選出されのちの日本プロレスコミッショナー川島正二郎に遭遇、赤十字大会では大宅映子に出会い、戦後復興間もないJALへ入社した際は安部譲二と同期だったりと、一般人のはずの敬子さんの周りに出てくる登場人物、のちに昭和を代表することになる著名人ばかり。

果ては力道山に見初められてスーパースターの夫人になるんだから、ほんと只者じゃない女性なんですよね…。

力道山亡きあと、リキグループに関する経営を一手に引き受けることになるわけですが、お嬢様育ちでJALのスチュワーデスだった敬子さんには、プロレス版「細腕繁盛記」とはいかず苦労が絶えなかったようですね。

早々にリキグループの「日本プロレス」から経営を離れたそうですが、その後もダラ幹から都合よいようにあしらわたらしくて…。

さらに、時代によっては全日本プロレスの役員に顔を連ねたり、先の通り破門状の署名になっていたりと、力道山の威を借る後継団体にも利用されたんだなあという印象を持ちました。

力道山の女性関係

力道山の出自については知っていたのですが、女性関係もかなり赤裸々に語られています。

敬子さんとの間に生まれた長女は終盤のエピソードに帰結していきますが、結婚後に「敬子さんは四人目の妻」であることを明かされ、二人目の妻の間に生まれた子供3人(全日本プロレスで活躍した百田兄弟)、さらに結婚後に同居することになるという、メチャメチャな展開

敬子さんはスチュワーデス時代に見初められたわけですが、なんと同じスチュワーデスで別の恋人がいたことが発覚!

「なぜ敬子さんを選んだのか」明確な示唆はありませんでしたが、家庭を持たないと銀行から金が借りられないという事情もあったようですね。

ただ、メチャメチャな反面、なぜか力道山という人柄に親近感がわいてしまいました。やっぱり不思議な魅力があるビジネスマンなんだなあと感じました。

プロレスにみる昭和裏面氏

任侠系から右翼系まで、戦後まもなくのプロレスを彩った裏社会のスーパースターが総登場!

力道山が相撲廃業後にどうやってのし上がってきたのか、日本のプロレス界はいかにして繁栄したのか。興行やマスコミからみたピカレスクロマンとでもいうべき、ソチラ系が好きな方はぞくぞくする内容だと思いますよ!

さらに、力道山が力を入れていた朝鮮半島の南北統一の悲願と、共産主義を排除したい自民党とプロレスを通じた反共親米を進む東スポなどと対立していた、という見方もあり、ニューラテンクォーターでの事件は「そうした勢力が力道山へ仕掛けたのでは?」という視点で鋭い推察もあります。(一応、本書では「それはない」と位置づけ)

結果、力道山の死後に日本は韓国と国交正常化し、北朝鮮との関係は冷え切ったまま。ここにクサビを打とうとしたのがアントニオ猪木であり、力道山の悲願を無意識に引き継いでいたのか…と考えると、ここにも無限のロマンを感じますね。

力道山が生きていたら、プロレス界はおろか、きっと日本自体が今の姿ではないのでは…。

そう思わざるを得ない昭和裏面氏はかなり読みごたえがありました。

まとめ

いかがだったでしょうか?

プロレス本としても楽しめる、未亡人の一生としても泣ける、そして昭和裏面史としても十二分にゾクゾクさせてくれる「ノンフィクション大賞」受賞の内容保証付きの一冊は超オススメです!

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