こんにちは!アツコアツオです。
今回は、全国の映画館でイベント上映されています『午前十時の映画祭13』のプログラムより、伊丹十三監督の『マルサの女』を観てきましたので、紹介したいと思います!
※以前、同じ『午前十時の映画祭13』で上映された伊丹十三監督作品『お葬式』も紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください↓
劇場で伊丹十三映画を観ることができる幸せ(しかも4K)!
伊丹十三監督作品『マルサの女』
おかっぱ頭でそばかすが目立つ板倉亮子(宮本信子)は、脱税を徹底的に調べ上げる税務調査官だった。尻尾を出さない脱税容疑者・権藤英樹(山崎努)にいらだつうち、国税局査察部・通称マルサに抜擢される。摘発のプロに成長した亮子は、再び権藤に立ち向かう。
脚本を作るに当たって、伊丹監督は査察部の現役、OB、税務署の調査官、統括官、署長、税理士から脱税摘発の膨大な体験談を取材。同時に、パチンコ、ラブホテル、不動産、金融、経済ヤクザに亘るさまざまな人物にインタビュー取材を行い、脱税テクニックのディテールを固めた。
そして伊丹作品の特徴である、驚くべき情報量を満載した脚本が完成したのだった。
伊丹十三記念館 作品解説より引用
私は小学生の時にこの『マルサの女』をフジテレビのテレビ映画で観たんですけど、まったく意味がわかりませんでした!
だけど冒頭のじーさんが授乳されているシーンだけが頭にこびりついていて、強烈なインパクトが残っていたんです…。今回オトナになって改めて視聴して、やっと意味が分かりました(笑)
本作は伊丹十三監督が『お葬式』で大儲けした際に税金にほとんど取られてしまった!という実体験から思いついたようです。『お葬式』も宮本信子の父親の葬儀による実体験を元に映画を作ったそうですから、ご自身が得た経験から映画の着想を得ることが多かったのかもしれませんね。
それから、子供だった私の自宅にはファミコンのゲームソフト『マルサの女』もありました(笑)たぶん親父が買ったんでしょうけど、ゲーム化するぐらいにヒットした邦画だったわけですね。(伊丹十三監督絡みでいうと、『スイートホーム』もファミコンソフトがありましたね)
『午前十時の映画祭』公式YouTubeチャンネルで作品解説していますので、よろしければどうぞ!
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マルサってどういう意味か
『マルサの女』てどういう意味かって?
映画の予告編の冒頭にはこう登場します。
脱税摘発の超プロフェッショナル、日本のタックス・ポリス
国税局査察部 彼らを人呼んでマルサという
劇場予告編から引用
日本のタックス・ポリス、という表現はわかりやすい。要はちゃんと税金を納めていない人を監視・摘発し徴収する省庁のお役人、という具合でしょうか。
マルサの”マル”とはなにかというと、秘密の事をマル秘とかっていうじゃないですか。
“マルサ”はそれと同じような表現で、査察部を指す隠語みたいなものですね。
社会派脱税エンターテインメント
この映画は少なくとも自分でお金を稼ぐようになった社会人で、しかも会社で自動的に税金を納めるサラリーマンよりも、個人事業主や経営者の方が理解が深まるでしょう。(そして恐ろしくなるかもしれません笑)
そんな意味では間違いなくオトナ向けではあるんですけど、あまり難しいことを考えなくても、”脱税”のディティールをわかり易く描いてますので、構えてみる必要はまったくナシ!
冒頭、大ボス格の権藤(山崎努)がややこしくて難しい脱税テクニックを披露していきますが、なんとなく「ズルをしている」という感覚で見ておけば問題ありません。その後に税務署員である主人公・亮子ちゃん(宮本信子)がリアリティある税務調査を通じて【納税】を詳しく教えてくれますので心配無用。
権藤が看護婦やヤクザなど様々なアンテナを使って脱税していく手口をみせた後に、亮子ちゃんが個人商店やパチンコ屋の帳簿を見て細かく指摘していく様は、今後両者が対決するであろう予感を対比的に示してくれます。
意外と早めに初対決を迎えますが、当時港町税務署員だった亮子ちゃんは、職務権限の限界もあり、権藤を切り崩せずに終わってしまいます。そしてその後、亮子ちゃんが国税局に栄転し再び対決の機会を得て権藤の脱税に迫っていく…というストーリーです。
お金にまつわる最高のエンタメ映画
そんな難しいテーマではありますが、2時間越えの長丁場…まったく飽きさせません!
以前に紹介した『お葬式』は、淡々と時の過行くままに物語がついてくるといった印象でしたが、本作はかなりエンターテインメント度が高く、ストーリーや登場人物のキャラクター、コメディ要素や最高のBGMまで、ケチの付けるところが全然ない!
強いていえば、【脱税】というやや難解なテーマを扱っているという点で、最低限に納税や脱税の存在を知っている必要がありますが、オトナであればあまり人は選ばない作品ではないでしょうか。
税金を徴収する側と脱税を目論む納税者側の勧善懲悪ストーリーなのですが、大ボス権藤含め敵側の面々は極悪非道というよりも、なんとも魅力的な人間性を持った人物ばかり。
『半沢直樹』ほど悪人がどす黒くないので、正義は勝つ!的なカタルシスは少ないものの、重厚なストーリーを真面目にやっているのにところどころ笑ってしまうエッセンスなんかもあって、仕事ができる役者陣がそれをしっかりと支えているという感じ。
観た後はなんともいえない満足感が得られると思いますよ!
執着という目線で考える
脱税エンターテインメント映画として非常に満足度が高い映画ですが、この物語は様々な登場人物の「執着」を視点にしてみると面白いかもしれません。
それぞれ登場人物の「執着」をみることで、主人公・亮子ちゃんの人間性に迫ってみたい。
権藤の場合
大ボス・権藤は脱税王なわけですが、意外や意外あまり金には執着していない様子。愛人もばっさり切り捨てるサバサバしたところもある。
亮子ちゃんに「(あなたの仕事は)夢を売る仕事ですね」と評されるシーンもありました。たくさんのお金は欲しいけど、ケチや渋ちんではないですよね。
最終盤でポイントになるのは実子である太郎との関係性でしょう。
権藤は彼に財産を残してやりたいと考えているようで、権藤は金に執着していたのではなく息子に執着していたといえそうです。
権藤家には二号さん的な夫人候補が常駐していますが、権藤がこの女性を愛している表現はないので、テイよく囲っているだけなんじゃないですかね。なにかと居たら都合が良い都合の良い女的な。でもこの夫人候補へもまったく執着がない権藤でした。
愛人の場合
本作には権藤の愛人が2名登場します。(さっきのニ号さんも含めると3人)
愛人1は途中で権藤に捨てられて、続いて愛人2との関係が始まるのですが、結局捨てられた愛人1が国税に権藤の秘密をチクったことから物語は急展開を迎えます。
この愛人2人は完全に権藤に執着していましたね。クライマックスで愛人2の大量の口紅から実印が出てくるシーンがありますが、「権藤に捨てられる」ことに悲観していましたから。好き、というよりもすがる相手が欲しい人たち、という感じでしょうかね。
じーさんの場合
冒頭に登場する末期がんのじーさん。
権藤と繋がっている看護婦に飼いならされていて授乳される始末。
死期が近いため権藤に架空の不動産屋を作られてしまうのですが、このじーさんの授乳シーンからは生への執着を感じさせられます。
だって赤ん坊だって生きるために必死で母親にお乳をもらうでしょ?
ちょっと無理筋?
亮子ちゃんの場合
ここまで幾人かのキャラクターを考えてきましたが、ここで主人公についても考えていきましょう。
この映画を観て感じたことなんですけどね。亮子ちゃんの素性の違和感ですよ。
亮子ちゃんは税務署時代もとにかくバリバリ働きます。納税者から嫌ごとをいわれてもなお税務調査進めていきますし、必要であればヤクザの組事務所まで突入します。とても職務に忠実な公務員なのです。
そして、勤務態度や功績が認められ税務署から、国税局へ栄転の辞令が下った時もものすごく喜んじゃう。公開当時はまだ女性の社会進出が少なかった時代でしょうし、元祖スーパーキャリアウーマンと呼んでも差し支えなさそう。
で、ですよ。
亮子ちゃんはシングルマザーだそうで、夜中に事務所で息子と思しき人物と電話していて、電子レンジの使い方を教えるシーンがあるんですが…。子供に関するシーンはたったそれだけ。(一応、ヤクザに息子のことで脅されるシーンはありますけど)
子供ほったらかしすぎじゃないですか?
亮子ちゃんはすごくまじめで一生懸命頑張る役どころではあるんですが、仕事への執着が半端ないのです!
終盤、権代の息子・太郎と良いコミュニケーションをとるシーンがあるんですけど、なぜか心を通わしている風っていう不思議な関係を築いていて。良いオバサンって立ち位置で権藤との間を取り持つんですけど…。
結局、太郎との付き合い方も”仕事”でしかなく、仕事を上手くやっていくための関係性でしかない、ということかもしれません。
亮子ちゃんは仕事(もしくは脱税摘発の仕事)が好きで好きでたまらないんでしょう。
一方、幼い子供をないがしろにしている様子ではあるけど、子供の存在はほとんど登場しないという。だったら電話で電子レンジの方法を教えるシーンは必要あったんだろうか?シングルマザーということだけにしておいて、子供の描写が必要な理由はなんだっただろうか?
もしかすると、続編『マルサの女2』では亮子ちゃんのプライベートまで描かれるのでしょうかね…。
伊丹十三監督の性描写
お待たせしました!お待たせしすぎたのかもしれません!
伊丹十三監督作品といえば、どぎついエロシーン!
以前紹介しました『お葬式』よりもエロシーンの数は多いけど、エロいインパクトはやや薄め。まとめますと…。
・冒頭のじーさん授乳シーン
・愛人1及び2と山崎努の濡れ場
・女には隠し場所が多いとのたまうばーさん
・桜金造がラブホに突入…
こんなところでしょうか。
エロいかどうかは異論の余地はあると思いますが、ばーさんが鍵なんて隠していないといってスッポンポンになりM字開脚するシーンはインパクト抜群ですね(笑)
やっぱ惜しむらくはばーさんであることですけど、よくよく考えるとそこまでばーさんではなかったかな…。でも、あんまりうれしくないなあ…。
最後に
今回は『午前十時の映画祭』というイベント上映で伊丹十三監督作品を観ることが出来ました。貴重な機会を作って下さり『午前十時の映画祭』スタッフの方々には御礼申し上げます。
伊丹十三監督作品は、昔は頻繁にテレビ放映をやってたんですけどね。監督が自殺されてからほとんどテレビでは触れられなくなってしまいました。
サブスク系にもラインナップされていないようですので、観る機会は少ないかもしれませんが、『マルサの女』以降、暴力団や宗教団体などますます暗部な社会テーマに切り込んだ作風が多くなっていきますので、他の作品も改めて観てみたいなあ。
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